「Instacart」は生鮮食品を最短1時間で届ける、即日配達に特化したEC。
Amazon出身のCEO、Apoorva Mehta氏は「何でもオンラインで買える時代なのに、なぜ生鮮食品だけはスーパーに行かなくてはいけないのか?」という課題感からInstacartをスタートした。
創業は2012年、Y combinater出身で現在までにシード・シリーズAあわせ$10.8Mを調達済み。
週10%の急成長で毎月新しい都市へ展開
昨年夏のシリーズA調達以降、展開地域を広げており11月にシカゴ、12月にボストンでローンチ。最初にローンチしたサンフランシスコでも週10%という急成長を見せていたが、2番目の進出となったシカゴではあっという間にサンフランシスコのオーダー数を上回り月に100%もの成長ペースとのこと。
(シカゴはサンフランシスコより天気が悪いため、買い物に出かけたくない日が多いから?)
今年に入ってからは更にスピードを早め、2月にワシントンD.C.とフィラデルフィア、3月にニューヨーク、4月にサンノゼとLAと続々とエリアを増やしている。
ベイエリアでは現在も週に10%の成長を続けているそうだ。
即日配達を実現するビジネスモデル
スタートアップが即日配達を実現する鍵はクラウドソーシングだ。InstacartはAmazonのような物流インフラを持たない。代わりに、Shopperと呼ばれる、買い物代行を行う個人と契約をする。現在は1000人のShopperと契約済み。
顧客から注文が入ると、Shopperはすぐスーパーに向かう。Shopper専用のアプリには各スーパー内の地図が用意されており、どの棚に注文された商品があるのか、どの通路を通ると最短なのかまで指示してくれる。このShopper専用アプリがInstacartの秘訣なのだとCEOのApoorva Mehta氏は語る。
買い物後、Shopperは自分の車やバイクで商品を顧客に届ける。配達量に応じた手数料と顧客からのチップを給料として受け取る仕組みだ。
他の仕事と掛け持ちでShopperをする人が多く、Trader Joe'sでレジ打ちのパートをする女性が掛け持ちで週に30時間働き、週500ドルも稼ぐ、という事例もある。
※Shopperへのインタビューや買い物とデリバリーの様子は以下の記事下部の動画で観ることができる。
The Same-Day War: Amazon, Google And Walmart Race To Bring Your Groceries
Instacartで購入できる商品の値段は、ほぼ定価での販売となるため実店舗に比べて少し高く設定されている(店頭と比較して平均30%値段が高いという検証記事もある)。
しかし忙しい顧客にとっては、簡単に注文して数時間後に受け取れる、というスピードの価値は低価格を上回るメリットだ。
競争が厳しい生鮮食品・小売業界の中で、スピードという切り口は価格競争に巻き込まれない価値として期待が高まる。
本当にすぐ届くのか?実際に使ってみた
起動直後のホーム画面がこちら。
デザインや写真の質が高く、生鮮食品ながらファッションECのような高級感が漂う。
画面上部の「Recipes」では、料理のレシピを紹介し、それに必要な食材を届けるというサービスも。
購入可能な店舗は「Costco」「Safeway」「WholeFoodsMarket」と、どれもアメリカでは定番のスーパー。
「Instacart Plus」を選んだ場合、Instacartが独自に近隣の店舗から選んだ割安の商品が並ぶ。
おすすめの商品。卵や果物が買えるのはInstacartならでは。りんごは1つから注文できた。
持ち帰ると重くて大変なアメリカの巨大な牛乳も、もちろん頼める。ビタミン入り、低脂肪、スキムミルクなど種類も豊富。
ちょっと驚きの写真がこちら。肉も買える!
選択中の店舗の中からのみ検索もできて便利。
各商品の詳細ページでは、値段や詳細、栄養分などの説明も。
商品の写真を拡大してみると、パッケージが見えるので想像しやすい。
配達時間を確認しオーダー
安めの「Instacart Plus」の中からペットボトルの水1ダースや牛乳など、自分で運ぶと面倒なものをメインに選び、合計$21。
気になる送料は、購入金額が$35以上の場合は送料$3.99、それ以下の場合は$7.99。
(現在は$35以上で送料無料になるキャンペーンを実施中)
右上のトラックと時計のアイコンをタップすると、届け先のお店ごとに「いつ届くか」をチェックできる。
「UNDER 1 HOUR」が選べたり、「11PM-MIDNIGHT」という選択肢があるので夜中まで働くオフィスワーカーにも便利そう。
今回は最短だった「UNDER 2 HOURS」で注文。
※ここで本来ならアプリ内でカード情報を入力し決済完了のはずなのだが、
バグなのか電話番号が入力できず先に進めない状態に…。
そのため、代わりにwebブラウザから注文を完了した。
注文を完了すると、最後に「Replacements」を設定するよう促される。
これは「もしオーダーした商品が売り切れだった場合に、代わりに似た商品を買ってくるか選択できる」という機能だ。
デフォルトでは似た商品が提案されている状態なので、
「デフォルトでOK」「代わりの商品を自分で選びなおす」「代わりの商品は不要」という3つの中から選択できる。
オーダーから90分で到着!
5:02pmに注文完了。直後に届いたOrder Confirmationのメールに
"It's scheduled for delivery between 6:05-7:05pm."
との記載があり、届く時間の目安がわかる。
オーダー完了後は、アプリで進捗状況を確認できる。
「Tyler D」というPersonal Shopperがオーダーを届けてくれるようだ。
(※この画面はInstacartのアプリではなく、SMS用のアプリ)
いちいちInstacartのアプリを開かなくても、SMSで進行状況を教えてくれる。
6:09pmに受け取ったSMSに "Delivery estimate: ~6:25pm" との記載があったので、
家で作業しながら待っていると、時間通りにShopperが到着!
オーダーから約90分で商品が家に到着した。
ShopperのTyler.Dから商品を受け取る。
写真をお願いしたら気さくにOKしてもらえた。
重い水のボトルなどは、家の中の置き場所まで運んでくれる、素晴らしいサービス。
オレンジ色のInstacartロゴ入りトートは、そのまま貰えるとのこと。
不織布でしっかりした作りで、エコバッグとしても使えそうだ。
即日配達ECは激戦区
実際に使ってみた感想として、やはりオーダーから90分後に家に届くという体験は感動がある。特に、日本のようにどこにでもコンビニ・スーパーがあるわけではないアメリカでは、このようなサービスが重宝されることは間違いない。アメリカではすでに即日配達(Same-day delivery)の市場は激戦区となっており、スタートアップではPeapod、EC界の巨人AmazonのAmazonFresh、Wal-MartのWal-Mart To Goなど各社力を入れている。生鮮食品以外では、Googleがベイエリアで試験提供中のGoogle Shopping ExpressやeBayのeBay Nowも存在する。
一見不利に思える巨人たちとの戦いだが、Instacartは急速に展開を進め健闘中だ。クラウドソーシングのビジネスモデルはインフラを必要としないため早く多数の都市に展開できる強みがある。
また昨年12月にRetailNet Groupが行った調査によると、同じ30個の商品をAmazonFresh、Wal-Mart To Go、Instacartで購入する実験をしたところAmazonFreshが最も高い金額となり、現在のところAmazonの即日配達には低価格のメリットはないと報じている。
激戦区となりつつある即日配達市場だが、アメリカでの生鮮食品EC市場は$600Bとの調査もあり、複数のプレーヤーが共存するにも十分な規模だ。
一方日本の同市場については、Amazonの「当日お急ぎ便」やイオンネットスーパーの「15時までの注文で当日宅配」がすでに存在する。都市人口が多く、ロジスティクスも精密な日本では宅配業者の努力による当日配送が実現されている。
さらに、セブンイレブン等のコンビニでも生鮮食品の取り扱いが増加しており、都市部ではすでに生鮮食品購入の利便性はかなり高い。
しかしながら、アメリカ同様スピードに価値を感じる多忙な顧客層のニーズは一定数あることは間違いないだろう。
Instacartのようなクラウドソーシングモデルの即日配達サービスが日本で現れる日も近そうだ。
参考:
Instacart introduces neighbor-to-neighbor grocery delivery to Boston
Look Out, Amazon Fresh: Instacart Announces Grocery Delivery Expansion
Research Firm: Amazon’s Groceries Are Pretty Expensive
Instacart: Crowdsourcing Your Grocery Shopping
Instacart Eyes 10 New US Markets For 2014 While Its Relationship With Trader Joe’s Remains On Hold
AmazonのサービスでAmazonを超えてみせた食料品販売ECサイト「Instacart」
投稿者:中澤理香@r1ccha