『あればいいな』ではなく『今ないと困る!』ビジネスを、Teespring創業者Evan Stites-Claytonへのインタビュー




ベイエリアの起業家へのインタビューシリーズ。今回は、Teespringの創業者であるEvan Stites-Clayton氏にインタビューを行った。Teespringは、クラウドファンディング型のTシャツ販売のプラットフォームで、誰でもノーリスクでTシャツの販売が行える。Y Combinator出身のチームで、著名VCのAndreessen Horowitzが2014年1月に単独で$20M(約20億円)を投資したスタートアップである。

ノーリスクでビジネスを始められるプラットフォーム



Q:まずあなたのプロダクトについて教えてください。
Teespringは基本的にTシャツ版のKickstarterで、Tシャツ(グループプロダクト)をクラウドファンディングの形式で簡単に製造・販売できるプラットフォームだ。ひと昔だったら、Tシャツを作るプロセスは大変なものだったけど、Teespringではデザインと素材、色などを選択するだけで済むんだ。目標額に達すれば2週間後にはTシャツが手元に届くよ。料金は前金制なので、在庫を持つこともなく、誰でも簡単で安全にアパレルのプロダクトが作れるようになっている。


Q:Teespringと他のTシャツ制作サービスの質について違いを教えてください。どのように質の高いTシャツを提供しているのですか?
Tシャツの製造の仕方は大きく分けて2つの方法があるのだけど、ひとつはデジタルプリンティングで、CafePressZazleなどの会社がこの手法を採用している。この手法だと、インクジェットプリンターを活用することでどんなイメージでもプリントできるのだけれど、問題は値段がめちゃくちゃ高くなってしまうことにある。また、質もあまる良くないんだ。一方、スクリーンプリンティングは質の高いTシャツが作れるので、僕らはそれを採用しているよ。リアルのインクで、一枚一枚プレスして製造するモデルだ。また使用されるインクひとつとっても僕らは米国中を回って1番質の高いものを採用している。下手なインクを使用すると厚みがでてしまうからね。詰まるところ、プリントの方法やインク選びあたりが他のサービスとの違いだよ。


Q:現在どのような人がTeespringでTシャツを販売しているのですが?
主にTeespringでTシャツを販売しているのは起業家(スモールビジネスの経営者)が多いね。彼らはブランドのアイディアをTeespringで販売すると共に、我々が提供している広告のネットワークに魅力を感じてくれている。彼らがTシャツを販売する際に、僕らはFacebookやGoogleのアドネットワークに彼らの商品を掲載することを通じて、彼らをサポートしているんだ。一方で、一般的な人もTeespringを使用してくれているケースもある。具体的には、家族やクラブ、チャリティーなどかな。また、ミュージシャンも使用してくれていて、Tesspringを通じて新しいオーディエンスの獲得に活用しているみたいだよ。加えて、徐々にeBayでいうパワーセラー(eBayを通じて多くの商品を販売するユーザーに与えられる称号)のようなユーザーがTeespringにも表れているね。


Q:ユーザーはTeespringでTシャツを販売する際に何を用意すれば良いのですか?
イメージをアップデートしてもらうか、僕らが用意しているテンプレート、デザインなどを使用してもらうかのどちらかになると思う。多くのユーザーはフォトショップが使用でき、自分でデザインしているみたいだね。


Q:どのようにキャンペーンの質を管理しているのですか?
攻撃的な内容や著作権に違反しそうなものは厳しく排除しているが、それ以外はユーザーの評価に任せているよ。クオリティの低い作品は誰も買わないから自然に淘汰されていくからね。


Q:トラクションについてお伺いします。どれだけのユーザーとアーティストを獲得しているのですか?
正確なデータを公表することはできない。3000以上の販売者と100万を超えるオーダーを出荷してきた。販売者のグループは小さいんだ。そして購入者のグループは大きい。ひとりの販売者が何枚ものTシャツを売るわけだから自然とそうなるよね。本業を続けながら、カジュアルにキャンペーンを開始する販売者や、Teespringだけで生計を立てているパワーセラーの数も徐々に増えていて、良いトラクションを獲得できていると自負しているよ。


Q:セラー(販売者)のTeespringから得られる平均収入はどのくらいなのでしょうか?
キャンペーンにもよるけど平均的には一枚売れるごとに$10販売者に入るようになっている。実際はいくらで販売するかは販売者が決めるから、その価格設定によるね。素材や販売数でベースとなる値段が決まる。それが6-12ドルの間だ。そこから値段をあげることができるんだよ。ミュージシャンなんかは30-40ドルで売っている、そして1枚売れるごとに20ドルを手にすることができるんだ。また、もっと利益が欲しい販売者は50ドルで設定することで1枚売れる毎に30-35ドルの利益を手に入れることができるね。もちろん、値段設定はユースケースによる。利益を目的にしないで人々に広くプロダクトを届けたい場合は、すごく手頃な値段でTシャツを販売できるんだ。


Q:最も成功したキャンペーンのケースはなんですか?
17,000ものTシャツを販売したキャンペーンが最も成功した事例だね。内容はアリゾナの消防士の殉職を追悼するものだった。消防士のコミュニティー経由でこのキャンペーンが広がっていったようだよ。そこで集められた資金は、あのような大火事が二度と起こらないようにするために使用されたんだ。これが、最も成功したキャンペーンだね。


Q:どのようにしてセラーを獲得したのですか?
僕たちから積極的に広めてはないないんだ。販売者が自らキャンペーンを通じて自然に宣伝してくれた形になっている。僕たちはただプラットフォームを提供しているだけ。口コミの力は本当にすごいね。キャンペーンが成功すると販売者はその話しを必ず友人にするんだ。こういう形で自然なバイラルが生まれている。特にTeespringだけで生計がたてられるといった話しはとてもインパクトがあるみたいだね。


ビタミン剤ではなく鎮痛剤のようなビジネスを




Q:あなたのバックグランドについて教えてください。
創業者とはTeespringをはじめる前に一緒に会社を創業したんだ。前回の会社は学生向けのジョブボード(求職掲示板)をやっていたのだがうまくいかなかった。そこでは、チキンエッグプロブレムに悩まされ、この経験がTeespringで相当役に立ったよ。学生が職を探しに来ても十分な求職を用意していなかったり、逆に求人側が応募を出すに値する十分な学生を集められなかったりね。あと、ニーズがそこまで強力なものではなかったんだ。言うなれば、僕たちがやっていたことはビタミン剤のようなもので、『あればいいな』といった程度のものだったんだ。でも本当は鎮痛剤のように、『今なくては困る!』というものを作るべきだったんだ。Monster.comやClaigslistなどの代替案があるので、僕らのプロダクトはそこまで必要なかったんだと思う。

またそういう点では、Teespringは鎮痛剤になりうるプロダクトだと自負しているよ。今までは、このように簡単にノーリスクでTシャツを販売する手段はなかったからね。だからこそ、数字は今も伸び続けているし、チキンエッグプロブレムも発生しなかった。なぜなら、販売者が口コミで購入者を引っ張ってきてくれるからね。僕らが販売者と購入者を頑張ってマッチングさせる必要はないんだよ。


Q:どのようにTeespringのアイディアを思いついたのですか?
僕らが大学生の頃、21歳以下でも入店できるすごく人気のバーがあったんだ。違法なんだけど、子供もそこに入れて酒が飲めた。そして、ある日突然、警察のガサ入れが入ってそのバーは潰れてしまったんだ。その時、皆がFacebook上で「悲しい!」とか「すごく気に入っていたバーだったのに」といったコメントを泣き顔や悲しい顔の絵文字なんかと共に投稿しまくっていたんだ。そこで、この機会を活用して何かバーのグッズを作ろうという話になった。そして、Tシャツが良いんじゃないかという話しになって、Tシャツを作るためにスクリーンプリンターのお店に行ったんだ。だけど、すぐにそれがうまくいかないことに気付いた。製造するのに2週間以上かかる上に2000ドルを前払いする必要があったんだ。2週間も経ってしまえば、皆バーのことなんて忘れてしまうよね。

そこで、その代わりに僕らはとても簡単なwebページを制作したんだ。PayPalで決済ができるようにして、人々にwebページからTシャツの事前予約を受付けることにした。なんと400枚を超えるTシャツが売れ、数千ドルの売上を記録したんだ。面白かったのは一夜で作ったwebページが、そこらのスタートアップよりも早く多くの売上を計上したことだった。また、ユーザーもバーだけではなく『私が通っているテコンドーの教室のも作りたい!』『プロジェクトのために資金を調達する手段として使いたい!』といった意見がでてきたんだ。それなら、このモデルをひとつ事業としてやってみるかという話しになって会社設立に至ったよ。


Q:YCの経験について教えてください。YCに入るベネフィットは何ですか?
YCは僕らにとってとても価値のあるものだったよ。YCに入ったチームは成長し続けないといけない環境に身を投じて、それを定期的にYCのパートナーに示す必要があるんだ。多くの会社がYCにアーリーステージの段階で入ることが多いのだけど、我々がYCに入った時は既にトラクションや売上があった。なぜなら、我々はYCに申し込む1年半前から会社をはじめていたからね。多くの企業は、設立から数ヶ月〜半年といった感じでとても早い段階でYCに入るケースが多かったので、既にうまくビジネスが回っている我々がYCに株を手渡してまで入る価値があるかよく考えたよ。

結論、ネットワークに価値があると考えYCに参加することにしたんだ。実際、コミュニティやディナーなど全てにおいて価値があるんだと感じた。特に価値を感じたのはYCのパートナーが、シリコンバレーで最も優れたVCのひとつであるAndreessen Horowitzを紹介してくれて、投資を受けるに至った時だね。僕らがYCのネットワークなしで彼らから資金を調達することは容易ではなかったと思う。YCに参加して企業価値を上げ、本物の投資家から資金を調達することや、Sam Altomanをはじめとしたパートナーからのアドバイスを受けれることがYCに入る価値だね。


Q:YCに入ることを考えている日本のスタートアップにアドバイスをください。
YCのパートナーは本物のトラクションに目を光らせているんだ。本物のユーザー、本物の成長、それらを筋の通った方法で説明できるかが重要になる。多くの人はどれだけ我々はスマートかなんてアピールをする準備をしてくるのだけれど、それよりも多くの人が抱えている本物の問題を解決できるかどうかを説明することに集中すべきだ。そして、明確な収益化のモデルや、明確な成長のシナリオを示す必要がある。多くの人がYCにアプライするために僕にピッチをしにくるのだけど、いつも僕の1度目のスタートアップと2度目のスタートアップ(Teespring)を比較させるんだ。先述したように、前者はビタミン剤だが、後者は鎮痛剤で、後者に集中すべきということ。

また、1社目のスタートアップで学んだもうひとつのことは、いくぶんかのユーザーを獲得できても、その後に収益化ができないと相当苦しむことになるということだ。我々は、最初は基本的に無料で使ってもらい、一部のヘビーユーザーにプレミアム会員をおすすめするといったフリーミアムモデルを考えていた。ただ、問題は我々はユーザーがそのサービスにお金を払う十分な証拠を持っていなかったんだ。結局、トラクションを持っていても誰もお金を払いたがらなかった。そうなるとそのプロダクトはピボットが必要になるね。一方Teespringが優れていたのは、はじめのうちに小さくスケールすることを実感できたことだ、初期のキャンペーンでユーザーがお金を払うことを確認できた。そのように小さくても良いから人がお金を払うということを証明することが重要なんだ。

また、YCは小さくて技術的なチームを好む。もしチームに5人以上いる場合は、多すぎるかもしれないね。ただ、5人以上いる会社が全部ダメなわけではない。実際に我々がYCに参加した時は、10-12人くらいの社員を抱えていたからね。ただ、実際は創業者3人だけでアプライしたんだ。とにかく、人が多い方が選考に有利であると考えない方が良い。彼らは、機能的なチームのコアな部分を見たがっている。多くの人が選考に絡むとその妨げになるからね。

そして、結局インタビューが全てなんだけど、インタビューに関しては全てに正直に答えることが重要だ。あなたが何に情熱を燃やしているのかを正確にしてくる必要があるね。情熱を伝えるのは30秒あれば十分だ。どのようにメッセージを伝えるかに集中すべき。あと、YCの卒業生に話を聞きにいくことも重要だ。アドバイスが貰えるし、他の卒業生を紹介してくれるかもしれない。また、その中の誰かがYCのパートナーに紹介してくれるかもしれない。パートナーへの紹介は1次選考突破に有利に働くと思うよ。

あと、もうひとつ僕からのアドバイスは、多くの人がYCはアーリーステージのスタートアップのためだけのものだと考えている。しかし、ある程度のトラクションを獲得している会社でも、僕らのようにYCに参加するのは悪い手じゃない。アーリーステージ後の会社にとっても、事業をもうひとつ上のステージに持っていくためにYCは助けになると思う。シードラウンドの調達を終えているチームでもYCにはたくさん採択されているしね。


Q:どのように日本のスタートアップはYCの卒業生と良好な関係を築くべきでしょうか?
まず、どのチームにアプローチするかはそのスタートアップの事業領域によると思う。そして、大きくなっているチームはたいてい時間がないので、まだ4人程度の小さく時間のあるチームにコンタクトすべきじゃないかな。小さなチームは成功してないように見えるから良いアドバイスが貰えないんじゃないかななんて考えてしまうかもしれないが、実際どのチームが急激に伸びるかは誰も予想できないので、そのような出会いも大切にすると良いと思う。また、YCに参加していたチームのリストがあるので、それを参考にアポを取るといいかもしれない。多くのチームは返事をくれないかもしれないけどね。


Q:日本の市場に進出する予定はありますか?
現在でも米国外への発送は受け付けているんだ。ただ、僕らはまだ言語対応やローカライゼーションには取り組んでいない。まだ公式な計画ではないけれど、今年の年末以降には海外展開を本格的に取り組もうと考えている。ヨーロッパでTeespringモデルが成功した後は、日本にいくかもしれない。日本人はユニークなTシャツを好んで着る傾向があるみたいなので、とても魅力的な市場だと感じているよ。まずは、通過の表示を円にすることからはじめたいね。Tシャツ自体は高品質で驚くほど安いので、海外の発送料込みでも十分に魅力的な値段だと思うんだ。カナダやオーストラリア、イギリスなどの英語圏では、徐々に支持を得ている。


Q:日本の潜在ユーザーに何かメッセージをください。

Teespringは、Tシャツを買うだけではなく、新しいブランドを確立するための素晴らしい機会になると思う。我々はクリエイティブな人向けにビジネスチャンスを生み出す手助けをしたい。あなたの商品は米国だけではなく、世界中の人々に届けることができる。日本でもこのモデルは十分機能すると考えているよ。なぜなら、多くの日本人はアーティスティックでクールなTシャツが好きみたいだからね。ローカライゼーションチームと共に海外展開を進めているので待っていてくれ。

Teespringのページはこちら

『あればいいな』ではなく『今ないと困る!』ビジネスを、Teespring創業者Evan Stites-Claytonへのインタビュー




ベイエリアの起業家へのインタビューシリーズ。今回は、Teespringの創業者であるEvan Stites-Clayton氏にインタビューを行った。Teespringは、クラウドファンディング型のTシャツ販売のプラットフォームで、誰でもノーリスクでTシャツの販売が行える。Y Combinator出身のチームで、著名VCのAndreessen Horowitzが2014年1月に単独で$20M(約20億円)を投資したスタートアップである。

ノーリスクでビジネスを始められるプラットフォーム



Q:まずあなたのプロダクトについて教えてください。
Teespringは基本的にTシャツ版のKickstarterで、Tシャツ(グループプロダクト)をクラウドファンディングの形式で簡単に製造・販売できるプラットフォームだ。ひと昔だったら、Tシャツを作るプロセスは大変なものだったけど、Teespringではデザインと素材、色などを選択するだけで済むんだ。目標額に達すれば2週間後にはTシャツが手元に届くよ。料金は前金制なので、在庫を持つこともなく、誰でも簡単で安全にアパレルのプロダクトが作れるようになっている。


Q:Teespringと他のTシャツ制作サービスの質について違いを教えてください。どのように質の高いTシャツを提供しているのですか?
Tシャツの製造の仕方は大きく分けて2つの方法があるのだけど、ひとつはデジタルプリンティングで、CafePressZazleなどの会社がこの手法を採用している。この手法だと、インクジェットプリンターを活用することでどんなイメージでもプリントできるのだけれど、問題は値段がめちゃくちゃ高くなってしまうことにある。また、質もあまる良くないんだ。一方、スクリーンプリンティングは質の高いTシャツが作れるので、僕らはそれを採用しているよ。リアルのインクで、一枚一枚プレスして製造するモデルだ。また使用されるインクひとつとっても僕らは米国中を回って1番質の高いものを採用している。下手なインクを使用すると厚みがでてしまうからね。詰まるところ、プリントの方法やインク選びあたりが他のサービスとの違いだよ。


Q:現在どのような人がTeespringでTシャツを販売しているのですが?
主にTeespringでTシャツを販売しているのは起業家(スモールビジネスの経営者)が多いね。彼らはブランドのアイディアをTeespringで販売すると共に、我々が提供している広告のネットワークに魅力を感じてくれている。彼らがTシャツを販売する際に、僕らはFacebookやGoogleのアドネットワークに彼らの商品を掲載することを通じて、彼らをサポートしているんだ。一方で、一般的な人もTeespringを使用してくれているケースもある。具体的には、家族やクラブ、チャリティーなどかな。また、ミュージシャンも使用してくれていて、Tesspringを通じて新しいオーディエンスの獲得に活用しているみたいだよ。加えて、徐々にeBayでいうパワーセラー(eBayを通じて多くの商品を販売するユーザーに与えられる称号)のようなユーザーがTeespringにも表れているね。


Q:ユーザーはTeespringでTシャツを販売する際に何を用意すれば良いのですか?
イメージをアップデートしてもらうか、僕らが用意しているテンプレート、デザインなどを使用してもらうかのどちらかになると思う。多くのユーザーはフォトショップが使用でき、自分でデザインしているみたいだね。


Q:どのようにキャンペーンの質を管理しているのですか?
攻撃的な内容や著作権に違反しそうなものは厳しく排除しているが、それ以外はユーザーの評価に任せているよ。クオリティの低い作品は誰も買わないから自然に淘汰されていくからね。


Q:トラクションについてお伺いします。どれだけのユーザーとアーティストを獲得しているのですか?
正確なデータを公表することはできない。3000以上の販売者と100万を超えるオーダーを出荷してきた。販売者のグループは小さいんだ。そして購入者のグループは大きい。ひとりの販売者が何枚ものTシャツを売るわけだから自然とそうなるよね。本業を続けながら、カジュアルにキャンペーンを開始する販売者や、Teespringだけで生計を立てているパワーセラーの数も徐々に増えていて、良いトラクションを獲得できていると自負しているよ。


Q:セラー(販売者)のTeespringから得られる平均収入はどのくらいなのでしょうか?
キャンペーンにもよるけど平均的には一枚売れるごとに$10販売者に入るようになっている。実際はいくらで販売するかは販売者が決めるから、その価格設定によるね。素材や販売数でベースとなる値段が決まる。それが6-12ドルの間だ。そこから値段をあげることができるんだよ。ミュージシャンなんかは30-40ドルで売っている、そして1枚売れるごとに20ドルを手にすることができるんだ。また、もっと利益が欲しい販売者は50ドルで設定することで1枚売れる毎に30-35ドルの利益を手に入れることができるね。もちろん、値段設定はユースケースによる。利益を目的にしないで人々に広くプロダクトを届けたい場合は、すごく手頃な値段でTシャツを販売できるんだ。


Q:最も成功したキャンペーンのケースはなんですか?
17,000ものTシャツを販売したキャンペーンが最も成功した事例だね。内容はアリゾナの消防士の殉職を追悼するものだった。消防士のコミュニティー経由でこのキャンペーンが広がっていったようだよ。そこで集められた資金は、あのような大火事が二度と起こらないようにするために使用されたんだ。これが、最も成功したキャンペーンだね。


Q:どのようにしてセラーを獲得したのですか?
僕たちから積極的に広めてはないないんだ。販売者が自らキャンペーンを通じて自然に宣伝してくれた形になっている。僕たちはただプラットフォームを提供しているだけ。口コミの力は本当にすごいね。キャンペーンが成功すると販売者はその話しを必ず友人にするんだ。こういう形で自然なバイラルが生まれている。特にTeespringだけで生計がたてられるといった話しはとてもインパクトがあるみたいだね。


ビタミン剤ではなく鎮痛剤のようなビジネスを




Q:あなたのバックグランドについて教えてください。
創業者とはTeespringをはじめる前に一緒に会社を創業したんだ。前回の会社は学生向けのジョブボード(求職掲示板)をやっていたのだがうまくいかなかった。そこでは、チキンエッグプロブレムに悩まされ、この経験がTeespringで相当役に立ったよ。学生が職を探しに来ても十分な求職を用意していなかったり、逆に求人側が応募を出すに値する十分な学生を集められなかったりね。あと、ニーズがそこまで強力なものではなかったんだ。言うなれば、僕たちがやっていたことはビタミン剤のようなもので、『あればいいな』といった程度のものだったんだ。でも本当は鎮痛剤のように、『今なくては困る!』というものを作るべきだったんだ。Monster.comやClaigslistなどの代替案があるので、僕らのプロダクトはそこまで必要なかったんだと思う。

またそういう点では、Teespringは鎮痛剤になりうるプロダクトだと自負しているよ。今までは、このように簡単にノーリスクでTシャツを販売する手段はなかったからね。だからこそ、数字は今も伸び続けているし、チキンエッグプロブレムも発生しなかった。なぜなら、販売者が口コミで購入者を引っ張ってきてくれるからね。僕らが販売者と購入者を頑張ってマッチングさせる必要はないんだよ。


Q:どのようにTeespringのアイディアを思いついたのですか?
僕らが大学生の頃、21歳以下でも入店できるすごく人気のバーがあったんだ。違法なんだけど、子供もそこに入れて酒が飲めた。そして、ある日突然、警察のガサ入れが入ってそのバーは潰れてしまったんだ。その時、皆がFacebook上で「悲しい!」とか「すごく気に入っていたバーだったのに」といったコメントを泣き顔や悲しい顔の絵文字なんかと共に投稿しまくっていたんだ。そこで、この機会を活用して何かバーのグッズを作ろうという話になった。そして、Tシャツが良いんじゃないかという話しになって、Tシャツを作るためにスクリーンプリンターのお店に行ったんだ。だけど、すぐにそれがうまくいかないことに気付いた。製造するのに2週間以上かかる上に2000ドルを前払いする必要があったんだ。2週間も経ってしまえば、皆バーのことなんて忘れてしまうよね。

そこで、その代わりに僕らはとても簡単なwebページを制作したんだ。PayPalで決済ができるようにして、人々にwebページからTシャツの事前予約を受付けることにした。なんと400枚を超えるTシャツが売れ、数千ドルの売上を記録したんだ。面白かったのは一夜で作ったwebページが、そこらのスタートアップよりも早く多くの売上を計上したことだった。また、ユーザーもバーだけではなく『私が通っているテコンドーの教室のも作りたい!』『プロジェクトのために資金を調達する手段として使いたい!』といった意見がでてきたんだ。それなら、このモデルをひとつ事業としてやってみるかという話しになって会社設立に至ったよ。


Q:YCの経験について教えてください。YCに入るベネフィットは何ですか?
YCは僕らにとってとても価値のあるものだったよ。YCに入ったチームは成長し続けないといけない環境に身を投じて、それを定期的にYCのパートナーに示す必要があるんだ。多くの会社がYCにアーリーステージの段階で入ることが多いのだけど、我々がYCに入った時は既にトラクションや売上があった。なぜなら、我々はYCに申し込む1年半前から会社をはじめていたからね。多くの企業は、設立から数ヶ月〜半年といった感じでとても早い段階でYCに入るケースが多かったので、既にうまくビジネスが回っている我々がYCに株を手渡してまで入る価値があるかよく考えたよ。

結論、ネットワークに価値があると考えYCに参加することにしたんだ。実際、コミュニティやディナーなど全てにおいて価値があるんだと感じた。特に価値を感じたのはYCのパートナーが、シリコンバレーで最も優れたVCのひとつであるAndreessen Horowitzを紹介してくれて、投資を受けるに至った時だね。僕らがYCのネットワークなしで彼らから資金を調達することは容易ではなかったと思う。YCに参加して企業価値を上げ、本物の投資家から資金を調達することや、Sam Altomanをはじめとしたパートナーからのアドバイスを受けれることがYCに入る価値だね。


Q:YCに入ることを考えている日本のスタートアップにアドバイスをください。
YCのパートナーは本物のトラクションに目を光らせているんだ。本物のユーザー、本物の成長、それらを筋の通った方法で説明できるかが重要になる。多くの人はどれだけ我々はスマートかなんてアピールをする準備をしてくるのだけれど、それよりも多くの人が抱えている本物の問題を解決できるかどうかを説明することに集中すべきだ。そして、明確な収益化のモデルや、明確な成長のシナリオを示す必要がある。多くの人がYCにアプライするために僕にピッチをしにくるのだけど、いつも僕の1度目のスタートアップと2度目のスタートアップ(Teespring)を比較させるんだ。先述したように、前者はビタミン剤だが、後者は鎮痛剤で、後者に集中すべきということ。

また、1社目のスタートアップで学んだもうひとつのことは、いくぶんかのユーザーを獲得できても、その後に収益化ができないと相当苦しむことになるということだ。我々は、最初は基本的に無料で使ってもらい、一部のヘビーユーザーにプレミアム会員をおすすめするといったフリーミアムモデルを考えていた。ただ、問題は我々はユーザーがそのサービスにお金を払う十分な証拠を持っていなかったんだ。結局、トラクションを持っていても誰もお金を払いたがらなかった。そうなるとそのプロダクトはピボットが必要になるね。一方Teespringが優れていたのは、はじめのうちに小さくスケールすることを実感できたことだ、初期のキャンペーンでユーザーがお金を払うことを確認できた。そのように小さくても良いから人がお金を払うということを証明することが重要なんだ。

また、YCは小さくて技術的なチームを好む。もしチームに5人以上いる場合は、多すぎるかもしれないね。ただ、5人以上いる会社が全部ダメなわけではない。実際に我々がYCに参加した時は、10-12人くらいの社員を抱えていたからね。ただ、実際は創業者3人だけでアプライしたんだ。とにかく、人が多い方が選考に有利であると考えない方が良い。彼らは、機能的なチームのコアな部分を見たがっている。多くの人が選考に絡むとその妨げになるからね。

そして、結局インタビューが全てなんだけど、インタビューに関しては全てに正直に答えることが重要だ。あなたが何に情熱を燃やしているのかを正確にしてくる必要があるね。情熱を伝えるのは30秒あれば十分だ。どのようにメッセージを伝えるかに集中すべき。あと、YCの卒業生に話を聞きにいくことも重要だ。アドバイスが貰えるし、他の卒業生を紹介してくれるかもしれない。また、その中の誰かがYCのパートナーに紹介してくれるかもしれない。パートナーへの紹介は1次選考突破に有利に働くと思うよ。

あと、もうひとつ僕からのアドバイスは、多くの人がYCはアーリーステージのスタートアップのためだけのものだと考えている。しかし、ある程度のトラクションを獲得している会社でも、僕らのようにYCに参加するのは悪い手じゃない。アーリーステージ後の会社にとっても、事業をもうひとつ上のステージに持っていくためにYCは助けになると思う。シードラウンドの調達を終えているチームでもYCにはたくさん採択されているしね。


Q:どのように日本のスタートアップはYCの卒業生と良好な関係を築くべきでしょうか?
まず、どのチームにアプローチするかはそのスタートアップの事業領域によると思う。そして、大きくなっているチームはたいてい時間がないので、まだ4人程度の小さく時間のあるチームにコンタクトすべきじゃないかな。小さなチームは成功してないように見えるから良いアドバイスが貰えないんじゃないかななんて考えてしまうかもしれないが、実際どのチームが急激に伸びるかは誰も予想できないので、そのような出会いも大切にすると良いと思う。また、YCに参加していたチームのリストがあるので、それを参考にアポを取るといいかもしれない。多くのチームは返事をくれないかもしれないけどね。


Q:日本の市場に進出する予定はありますか?
現在でも米国外への発送は受け付けているんだ。ただ、僕らはまだ言語対応やローカライゼーションには取り組んでいない。まだ公式な計画ではないけれど、今年の年末以降には海外展開を本格的に取り組もうと考えている。ヨーロッパでTeespringモデルが成功した後は、日本にいくかもしれない。日本人はユニークなTシャツを好んで着る傾向があるみたいなので、とても魅力的な市場だと感じているよ。まずは、通過の表示を円にすることからはじめたいね。Tシャツ自体は高品質で驚くほど安いので、海外の発送料込みでも十分に魅力的な値段だと思うんだ。カナダやオーストラリア、イギリスなどの英語圏では、徐々に支持を得ている。


Q:日本の潜在ユーザーに何かメッセージをください。

Teespringは、Tシャツを買うだけではなく、新しいブランドを確立するための素晴らしい機会になると思う。我々はクリエイティブな人向けにビジネスチャンスを生み出す手助けをしたい。あなたの商品は米国だけではなく、世界中の人々に届けることができる。日本でもこのモデルは十分機能すると考えているよ。なぜなら、多くの日本人はアーティスティックでクールなTシャツが好きみたいだからね。ローカライゼーションチームと共に海外展開を進めているので待っていてくれ。

Teespringのページはこちら