ベイエリアの起業家インタビューシリーズ。今回は、アジャイル開発を請け負い、スタートアップや大企業の海外進出(アプリのローカライズ等)をサポートするPropeller Labsの創業者George氏にインタビューを行った。
Propeller Labsを利用することで、日本国内のスタートアップや大企業は、日本にいながら米国に最適化したアプリの開発が可能になるという点が特徴だ。早速、インタビュー内容を紹介していこう。
現地のトレンドやスタイルを理解し、適応させる必要性
聞き手(以下S):主な顧客は大企業ですか?それともスタートアップ?
George(以下G):両方だね。大企業でいうと、大規模建築物の設計会社とか、従業員5万人くらいで、世界中で大規模な建築物を作っている会社などは顧客だよ。建築検査員の建築プロセスを一貫して支援するiPadアプリなどを提供している。リアルタイムでの遠隔コミュニケーションを支援するアプリケーションだね。小規模な企業だとビジネスインテリジェンスに使うモバイルアプリケーションの開発なんかだ。例えばリンクトインでいつ繋がったのか、誰とミーティングの予定があるのか、連絡の状況はどうなっているのかなどを把握するためのアプリなど。
S:米国市場に進出したい日本のスタートアップを支援することも可能ですか?
G:もちろん。ジオマイシーなんかは支援したよ。数ヶ月前にサンフランシスコに来たと思う。でも、今は特に中国系企業からの依頼が非常に多い。例えば、UCwebというブラウザを提供している企業。彼らは色々なデバイスで動くブラウザを開発しているんだ。アジア固有のデザインスタイルは、アジア市場で戦う分には十分に機能するけれど、米国市場に進出するには、欧米で受け入れられているトレンドや現地企業が採用しているデザインスタイルを理解し、それらに適応する必要があると思う。
S:ローカライズが非常に重要ということですね。依頼のコストはどれくらいかかるのですか?
G:プロジェクトの規模によってまちまちだよ。長期に渡るプロジェクトほど高くなるし、短期であれば低コストになる。
S:最も低コストだったプロジェクト例は何ですか?
G:例えば、たった今携わっているiOSアプリの開発は低コストな案件だよ。MVP(Minimum Viable Product)の手法で、顧客が対価を支払ってくれる最低限の機能でプロダクトを開発している。モバイルでもウェブでも利用できるレスポンシブなデザインするのだけど、これにかかる期間が1ヶ月半から2ヶ月。このプロジェクトのフィーが約45,000ドル(1ドル100円計算で、約450万円)といったところ。多くのプロジェクトが45,000〜60,000ドルの範囲のものだよ。値段は、人的リソースの投入量や、APIやドキュメントが既にプラットフォーム上にあるかどうかなどによっても変わってくる。iPadアプリ、iPhoneアプリ、ウェブアプリ全てを手掛ける場合は150,000ドルくらいかな。
S:デザイナーだけを探しているスタートアップも多いと思います。ウェブデザインだけをお願いすることはできますか?
G:もちろん。ウェブサイトのデザインだけ、iOSアプリケーションのデザインだけでもOKだし、ウェブアプリケーション、モバイルアプリの開発だけでも可能だよ。
S:サンフランシスコで良いデザイナーを見つけるのは本当に難しいとお聞きしました。コストが高くつくし、本当に優秀な人材とは簡単に出会えないと。
G:そうだね。大抵の優れたデザイナーは給料の良い会社に採用されてしまうからね。僕らのオフィスはTwitterと同じビルに入っているんだけど、才能ある人達が次々と雇われているのを感じるよ。彼らはそういう才能には高い給料を惜しみなく支払うから、今サンフランシスコで良い人材を見つけるのはかなり大変だと思う。
S:いくらでウェブデザインを依頼できるのですか?
G:フルタイムでウェブアプリケーション開発を行う場合は4ヶ月程度で約20,000ドルというところかな。開発が複雑なものになれば40,000ドル、MVP程度のそこまで複雑でないものなら20,000ドルというところ。どの程度複雑な機能を求めるかによるね。10,000ドル以下の案件はどうしても期間が短くてハードスケジュールなものになってしまうので基本的に受けていないよ。
S:スタートアップのプロジェクトに携わった具体例を教えてください。
G:今月(当時3月末)iOSアプリをローンチするスタートアップの案件。Eメールのクリック率やメール開封のロケーションをトラッキングし分析するアプリで、そのデザインを担当したよ。どの場所から何のデバイスでメールを送ったかをトラッキング出来るアプリで、これを作ったスタートアップは3人の小さなチームさ。
デザインにかかった期間は1〜2ヶ月程度だったよ。他に担当したものでは3週間で完了したものもある。手順としては全体的な戦略について議論し、次いでUXデザイン、ワイヤーフレーム、設計、ペルソナ、ユースケースについて話し合う。この過程を経てデザインに着手する。今回のケースでは全体で2ヶ月くらいかかったかな。デザイン、UI・UX、ウェブ開発など全般に携わったから、コストは40,000ドルくらい。
S:スタートアップにとって40,000ドルは中々の大金だと思うのだけど、彼らはどのように支払っているの?
G:50%を先に支払ってもらい、残りの分は3ヶ月間で払ってもらうというようなことはあるね。ただ、エンジェル投資家から資金調達したり、キックスターターで資金調達をしたり。2回目、3回目の起業になると多くの人が投資したがるのでリッチになって、1Mドルのような大金を投じて開発をしたりするね。その点、うちの会社はリーズナブルだと思うよ(笑)
S:逆に米国企業を日本の市場にローカライズさせるというビジネスに興味はありますか?
G:スタートアップのアジア市場への展開のために、どんな貢献ができるかを考えるのは好きだよ。モバイル市場、アプリ市場に参入したい大企業は多いけれど、アジア市場での信頼獲得はやはり難しい。だから今、中国や日本などのアジア市場に参入する方法を探っているよ。
大学中退・起業・仲間集め
S:バックグランドについてお伺いします。サンフランシスコに移ったのはいつ頃ですか?
G:SFのほど近くで生まれ育ったんだ。とてもラッキーだったなと思う。セントラルバレーのModestoという街で生まれたんだ。その後はオークランドで育ち、今もオークランドに住んでいる。大学もバークレーだったし、ずっとこの辺りで暮らしてきているね。バークレーに入学したのは2006年で、起業学におけるデザインを学びたかったけどちょっと遅かった。結局、分子生物学にアプライしたよ。父も妹も外科医で、「みんな同じことをやっているじゃないか!」という流れさ。でも化学が好きではなかった。新入生の年にビジネスをやるためにドロップアウトを決めた後、スタートアップクラブを始めて、大きな会社から多くのスポンサーシップを得た。FacebookからはDustin Moskovitzが来て講演をしてくれたりした。多くの刺激を得たよ。それで、その後はスタートアップで働き始めた。そこが買収されたのでエージェンシーに移り、その後自分のスタートアップを少しやって、また違うスタートアップを共同創業した。
S:どのようにチームのメンバーを採用したのですか?
G:個人的なつながりから。「誰か一緒にやってくれそうな人はいない?」と人に尋ねるよ。安いし、リクルーティングフィーを払う必要もないから。
S:7人が働いているみたいですね。エンジニアはどれくらいの割合ですか?
G:エンジニアの方がデザイナーより多いね。
S:外部のデザイナーに協力を仰ぐことはありますか?
G:殆ど無いよ。なるべくしないようにしている。本当に大きなプロジェクトに関しては一緒にやった人に依頼する。でも基本的には自前で。2人のデザイナーで大体は対応する。でもリクルーティングは本当に大変!
S:もっと人を雇う計画はありますか?
G:出来ればね。ただ大量に雇いすぎると仕事がなくて結局解雇することになるし基本的には会社の成長に合わせる形で増やしていきたい。ただ将来的には大きく採用を増やしていくと思う。今は人の紹介などでやれているけれど、その時が来たら全く知らない人たちの採用にも着手する必要がある。それはそれで、また新しいチャレンジになると思う。
S:社員をトレーニングするために何か実施していることはありますか?スクールに通わせるとか。
G:シニア層を雇っているので大体彼らは良く仕事の仕方を知っている。仮に十分でない場合には本を読ませたり、経験させる。経験することで学習していって、次に同様の案件が来た時にはより簡単に出来るようになっている。EmailTrackingのような新しいことに挑戦できるのはいいこと。シンプルだけどとても役立つ。そういったことをもっと経験していければと思う。
S:ありがとうございました。
Propeller Labsのホームページはこちら。日本に居ながら米国版アプリの開発を依頼することが可能です。