『Y Combinatorのためだけにスタートアップを作るな』中国初YC出身スタートアップStrikingly創業者David Chenへのインタビュー



ベイエリアの起業家へのインタビューシリーズ。今回は、中国初のY Combinator出身スタートアップであるStrikingly創業者David Chen氏にインタビューを行った。Strikinglyは誰でも簡単かつ短時間で美しいウェブサイトを制作できるホスティングサービスを提供している。

誰でも5分で美しいウェブサイトが作成できる


質問者S(以下S):まずStrikinglyがどのようなプロダクトなのか教えてください。
David(以下D):誰でもモバイルに最適化されたウェブサイトを簡単に作れるサイトビルダーだ。ざっくり言って5分ほどでウェブサイトが作成できる。現在も更にこの作成時間を極力短縮できるように努めているよ。数分の作業で誰もがオンライン上に自分の美しいウェブサイトを作れるようにしたいと思っている。

S:他のウェブサイトビルダーとの違いについて教えてください。
D:2つ大きな違いがある。一つは完全にモバイル最適化しているということだ。このサービスを立ち上げるにあたってモバイルファーストで取り組んだ。ウェブは二の次だ。このウェブからモバイルへの根本的なシフトは自分たちのデザイン、プロダクトとの関わり方、哲学にとって非常に重要なものになったよ。自分たちはそれによってモバイルの世界で使われるプロダクトを作る、モバイルに最適化したプロダクトを作るということにプライオリティを置くようになったからね。そして次のステップとして、クロスプラットフォーム最適化を実現したいと思っている。これはウェブもまた依然として重要な流入経路だからだ。つまりここで僕が「モバイル最適化」と言っているのは、何もモバイルだけに最適化するということを指しているのではなくて、モバイルファーストでプロダクトを開発し、続いてウェブにも対応できるように作るということだよ。

もう一つはシンプルさだね。ウェブサイトビルダー自体は何も新しい領域ではなく1990年代からあるものだ。ところが、ウェブサイトを作るという多くの人にとって複雑である作業を簡単にするような確固たるソリューションはいまだに存在していない。だからこそ極力最小限の機能をもったシンプルなソリューションを提供して、誰もがウェブサイトを作れるようにしたいと考えている。ユーザーの95%はこれまでは自力でウェブサイトを作れなかったけれど、皆Strikinglyを使って自前のウェブサイトをすべて一人で作成できている。
シンプルさ、そしてモバイル最適化が、他のウェブサイトビルダーとの明確に差別化となる2つのキーポイントだ。


S:Strikinglyにとっての最大のマーケットはどの国でしょうか。
D:米国からスタートしてユーザーのコミュニティもここにあるから、そういった意味では自然と米国がもっとも大きくてアツい市場だといえるかな。ただしウェブサイトの作成は何も米国の人たちだけが抱える問題ではない。米国に次いで大きな市場は基本的にはヨーロッパ諸国だと考えている。そういえば面白いことに、ユーザの規模で言えば現在のところ米国の次に大きいマーケットが日本、そしてフランスになっているんだ。とりわけ日本マーケット向けには何か施策を打ったわけでもなく、日本語バージョンも作っていない、にも関わらずね。

調べてみて分かったのは、日本人ユーザーたちがグーグル翻訳を使いつつStrikinglyを使ってくれているということだった。これには驚いたよ、「そんなに大変な思いをしながら使ってくれているのか」と。僕としてはデザイン、存在感、個性といったものにこだわる国において非常に伸びているのを感じている。直近では中国ユーザーがどんどん増加しているし、ヨーロッパ諸国でも同様だ。ただしあくまでも米国がメインのマーケットであることに変わりはないよ。そして日本、フランスも重要なマーケットだ。


S:どのように米国、日本、フランスなどでユーザーを獲得してきたのですか?
D:僕らのチームはプロダクト志向が強くて、とにかくこのStrikinglyというプロダクトを愛しているんだ。プロダクトを作ることが大好きだし、ユーザーをハッピーにすることに大きな喜びを感じる。だから例えば、ユーザーサポートのトップの肩書きはチーフ・ハピネス・オフィサー(Chief Happiness Officer)としていたりね。将来的にはプロダクトを最高なものに磨き上げて、ユーザーたちが自然とStrikinglyのことを口にするようになり、より多くの人に広まっていくことを目指している。

だからこれまでマーケティングらしいことはやってきていなくて、全ては口コミによるものなんだ。実際米国では、今までに僕自身で約2万人の人たちに個別でStrikinglyのことを話してきている。彼らと良い友人関係を築くことができれば、自然と彼らはプロダクトのことを口コミで広めてくれるんだ。日本でもこれは全く同じで、最初に少数だけど影響力のある人達がユーザーになってくれた。そのうちの一人はたしか京都出身で、いまはカナダにいるはずなんだけど、彼が「僕とStrikinglyにまつわるストーリーを描いてみたよ」といってアニメを作ってくれたことはすごく嬉しかったし、印象に残る出来事だったよ。僕が感じているのは、Strikinglyのユーザーは僕らのプロダクトの熱狂的なファンになってくれていて、周りの人達にも本当によく広めてくれているということだ。今自分たちはサービスのコミュニティ作りによるマーケティングを推し進めているけれど、常に念頭に置いているのはプロダクト、ユーザーの幸せ、この2つだ。これがStrikinglyというプロダクトを広める上で非常に重要なことだと考えている。


S:どのような人がメインユーザーなのでしょうか?また、ユースケースを教えてください。
D:非常にたくさんのユースケースがあって、中には全く想像していなかったようなものもあったよ。ウェブサイトビルダーの従来のユーザー像としてスモールビジネスの事業者が挙げられるけど、Strikinglユーザーにもやはりそういった人たちは多い。例えば日本人ユーザーで多いのはヨガ教室を開いている人などがそうだ。自分でビジネスをやっていたり、フリーランサーとして活動していたりする人たちが多く使っている。これはまさにこれまでのウェブサイトビルダーにおける典型的なユースケースと言えるんじゃないかな。

それ以外での新しいトレンドとして、自身の団体を立ち上げたり、独自のプロジェクトをスタートする人、アプリを開発するスタートアップの人たちなどによる利用が伸びてきている。こういった自分たちで何かを作ることに関心を持つユーザークラスターのことを僕たちは「アントレプレナーコミュニティ」と呼んでいる。多くのユーザーが彼らのプロジェクトに関していいスタートを切るためにStrikinglyを活用しているんだ。通常スタートアップには十分なリソースはないけれど、Strikinglyを使ってランディングページを作り、プロダクトに関するアイディアを披露して、どのくらいの人たちがそのプロダクトのユーザーになってくれそうか、アイディアを好きになってくれるかといったことを検証できるからね。とても効率的なやり方だと思うし、そのために技術者の共同創業者を見つける必要もなくなる。

そんな訳で多くのユーザーがランディングページを作ったり、特定のイベントに関する特設サイトや自身のサイドプロジェクトのこと、非営利団体について情報発信するための手段として使ってくれている。最近見つけたところで言うと、日本で人気のあるバブルサッカーのサイトなんかもとても面白かったよ。まとめると、いわばアントレプレナー、イノベーションといったカテゴリで利用してくれているユーザー層があって、彼らも相当数いるんだ。

それから他にも興味深いユースケースがあって、パーソナルブランディング、オンライン履歴書として活用している人たちが非常に多い。日本人政治家のユーザーもいて、独自のキャンペーンサイトを作るのに使ってくれていた。多くの人が個人的な情報発信のツールとしてStrikinglyを利用してくれていて、職探しのため、またアート作品などポートフォリオ掲載のために使っているケースが多いね。さらに、あるカテゴリーで全く想定していなかった使われ方をしていたことがあって、何かというとStrikinglyを使ってラブレターをしたためて彼女に送った男性がいたんだ!またある男性は、プロポーズ用にウェブサイトを作っていたりね。記念日、結婚式といったイベントに際してStrikinglyを使ってくれる人たちがいることは本当に考えてもいなかったので本当に驚いたよ。それ以外にもPowerPointの代わりにプレゼンテーション用のドキュメントを作成するのに使ったり、はたまたフォトブログとして使ったり。当初自分たちが想定していたスモールビジネスシーンでの人気はやはり高いけれど、同時にユーザーたちが僕らの頭になかったような用途で、様々な場面でStrikinglyを独自に活用していてつねづね驚かされているよ。


YCのためだけにスタートアップを作るな



S:YCでの経験について教えてください。YCに参加することで得られるアドバンテージは何でしょうか?
D:YCのプログラムは間違いなくこれまで経験した中で最高なものだった。個人的にYCのことを最も的確に表現するとすれば、それは「最高の大学に入学する」ようなものかな。スタートアップをやっているととかく経験するのは、自分がとても孤独で、こんなことをやっているのは自分しかいない、周りの人が皆自分に否定的なのではないか?といったネガティブな感情を抱くことだ。だけどYCでは、同じように参加者皆がそれぞれの問題を抱えていることを実感できる。また参加者は皆イノベーティブで自らの中に強い原動力を持っている人たちばかりだ。それはもう素晴らしい経験が出来たし、このようなコミュニティの一員になれることが何より価値のあることだと強く感じたよ。YCを卒業してからも偶然道端でばったりと会ったときに「あの時一緒だった〇〇じゃないか!」と言って話せるような卒業生ネットワークに加わることが出来たことは非常に大きいと思う。

そしてもう一つ大きな価値は、超一流のメンタリングが受けられることだ。メンター陣は皆単なる投資家ではなく起業家としての経歴を持っていて、スタートアップをやっていく中で経験する苦難をよく理解してくれている。だからこそ彼らのアドバイスは非常に有意義なんだ。加えて、一流の投資家ネットワークにもアクセス出来るようになるし、YCという名前のもとで多くの様々なリソースにアクセス可能になる。まとめると、コミュニティの一員となれること、優れた助言をもらえること、そして多くの人脈にアクセスできるようになること、これらがYCで得られるものだと言える。ただ長期的な視点で言うと、やはりYCを通じて出会った人たち、これが他のどんなことよりもかけがえのない財産になっていくと確信しているよ。


S:YCに参加したい日本のスタートアップに対してアドバイスをお願いします。
D:実は初めてYCにアプライした時、自分たちは審査が通らなかった。最終面接まで残り、マウンテンビューに行き面談をし、そして最終的に却下されてしまったんだ。その後僕たちはフルタイムでプロダクトの開発に専念することに決め、中国からの片道航空チケットを買ってサンフランシスコに飛んだ。「先のことなんて知るもんか」とね。それから5ヶ月後、YCに二度目のアプライをして、それが無事通り参加することになった。YC参加にあたっては、もちろんトラクション、チーム、あらゆることが重要だよ。ただ、一つだけアドバイスをするとすればそれは「YCのためだけにスタートアップを作るな」ということだ。YCやその他インキュベーターのためにスタートアップをやるのか?それが間違いなことは明らかだ。ところが、一回目のスタートアップをやる起業家の多くがそうした間違いを犯しがちだ。「YCに入れば、500Startupsに入れば、はたまたその他のインキュベーターに入れば行く先は明るい!」そんな風に思い込んでしまう。自分のコンピューターを売っても、家を売っても、それでもがむしゃらに仕事を続けているスタートアップを見てはじめてYCは「このチームには可能性がある、彼らをサポートして成功させよう」と考えるんだ。だから、あまりYCに参加するということばかりを深く考えすぎるなということを伝えておきたい。大事なのはあくまでも自身のアイディアであり会社だ。会社にとって重要なのは、トラクションやチームだ。そしてプロダクト、ユーザーだ。もちろんそれらは必ずしも将来の成功を約束するものではないよ。だけどそのスタートアップに全力を尽くしていて、結果的にYCには入れなかった、それでどうなるか?そう、何も気にすることはない。真に重要だと思えることをひたむきに続けていくことが、いつの日か成功につながるんだ。


S:Strikinglyを始める前には何をしていたのですか?
D:面白いことに学生時代に特にコンピューターサイエンスを学んでいたわけではなくてね。シカゴ大学で経済学を専攻していたから、卒業後は投資銀行で証券マンとして働くかもしれなかった。だから、テック系スタートアップの世界に飛びこんだのは偶然なことだったね。計画的に決めたことでも戦略立てて考えていたことでもない。ただ、自分が恵まれていたと感じるのは周りに志を同じくする仲間がいたことだ。Strikinglyを始める前、学生時代に一つ目のスタートアップを立ち上げたけれど、それは失敗してしまった。その後大学をやめ、上海に戻り社会起業インキュベーターで働き始めたよ。当時は良いことがやりたい、人類にとって役に立つことをしたいと考えていたけれど、自分を奥底から駆り立てるものが何かと考えた時に、イノベーティブな物事により惹かれている自分がいることに気がついた。人類にとって良いことでも、自分がワクワクすることをしていないようではダメだ。ちょうどその頃、学生時代にスタートアップを一緒にやっていたCo-Founder2人に話をしていてね。一緒にもう一つ上のレベルに行こう、と。こうして僕たちはStrikinglyをスタートした。大切なことは、本当に一緒に働きたいと思える仲間と共に取り組むこと、情熱や自分の内なる声に耳を傾けて、自分が本当に成し遂げたいことが何なのかを知ることだと思う。


S:中国のスタートアップシーンについてお聞かせください。スタートアップを始めるには良い環境なのでしょうか。
D:一言で表すなら、現在の中国のスタートアップシーンの盛り上がりは凄まじいものがある。北京に行けば一目瞭然だが、ちょうどサンフランシスコと同じように誰もがスタートアップを立ち上げている。そこに流れこむ資本も莫大で、若者たちが我こそはと名乗りをあげてスタートアップの世界に続々と飛び込んでいる。そういった意味では非常にダイナミックな流れがあると言えるね。けれど、ステージとしてはまだまだは初期段階だし、エコシステムはシリコンバレーのそれにはまだまだ及ばない。なぜならシリコンバレーは長い歴史を持っているからね。士業や専門業の人々、インキュベーターの層も厚いし、例えばここサンフランシスコではスタートアップの話をすれば皆が力を貸すと言ってくれる。中国のエコシステムはまだこのレベルには到達していない。たしかに皆が一旗揚げようとスタートアップの世界に進み、同時に投資家たちもいい投資機会を熱心に探っているし、日々多くのモノや新しいアイディアが出てくる刺激的な環境であることは間違いない。ただエコシステムという観点で言えば、少なくとも僕らが見てきた限りではまだまだシリコンバレーのような持続可能で健全なエコシステムにはなっていないのが実際のところだ。今は本当に初期の初期、そのようなエコシステムを作り上げていく第一歩を踏み出したといったところだよ。


S:日本のStrikinglyポテンシャルユーザーに向けて一言お願いします。
D:僕たちはまだまだ新しいスタートアップで、若いチームだ。誰もが使えるプロダクトを作り上げていくつもりだし、より良いものに育てていくためにやらなければならないことは無数にある。だから常にStrikinglyをよりよくするために改善すべきことを教えてくれるユーザーたちを求めているよ。あらゆるインスピレーション、アイディア、イノベーションはユーザーの期待に応えたいという欲求から生まれるからね。このクリエイションプロセスは僕たちだけで実現できるものではなくユーザーと一緒に取り組んでいくものだと考えている。特に日本はとても興味深いマーケットだ。誰のどのようなアドバイスであれ喜んで受け入れたいと思っているので、良いアイディアやフィードバックがあればいつでも知らせてほしい。

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『Y Combinatorのためだけにスタートアップを作るな』中国初YC出身スタートアップStrikingly創業者David Chenへのインタビュー



ベイエリアの起業家へのインタビューシリーズ。今回は、中国初のY Combinator出身スタートアップであるStrikingly創業者David Chen氏にインタビューを行った。Strikinglyは誰でも簡単かつ短時間で美しいウェブサイトを制作できるホスティングサービスを提供している。

誰でも5分で美しいウェブサイトが作成できる


質問者S(以下S):まずStrikinglyがどのようなプロダクトなのか教えてください。
David(以下D):誰でもモバイルに最適化されたウェブサイトを簡単に作れるサイトビルダーだ。ざっくり言って5分ほどでウェブサイトが作成できる。現在も更にこの作成時間を極力短縮できるように努めているよ。数分の作業で誰もがオンライン上に自分の美しいウェブサイトを作れるようにしたいと思っている。

S:他のウェブサイトビルダーとの違いについて教えてください。
D:2つ大きな違いがある。一つは完全にモバイル最適化しているということだ。このサービスを立ち上げるにあたってモバイルファーストで取り組んだ。ウェブは二の次だ。このウェブからモバイルへの根本的なシフトは自分たちのデザイン、プロダクトとの関わり方、哲学にとって非常に重要なものになったよ。自分たちはそれによってモバイルの世界で使われるプロダクトを作る、モバイルに最適化したプロダクトを作るということにプライオリティを置くようになったからね。そして次のステップとして、クロスプラットフォーム最適化を実現したいと思っている。これはウェブもまた依然として重要な流入経路だからだ。つまりここで僕が「モバイル最適化」と言っているのは、何もモバイルだけに最適化するということを指しているのではなくて、モバイルファーストでプロダクトを開発し、続いてウェブにも対応できるように作るということだよ。

もう一つはシンプルさだね。ウェブサイトビルダー自体は何も新しい領域ではなく1990年代からあるものだ。ところが、ウェブサイトを作るという多くの人にとって複雑である作業を簡単にするような確固たるソリューションはいまだに存在していない。だからこそ極力最小限の機能をもったシンプルなソリューションを提供して、誰もがウェブサイトを作れるようにしたいと考えている。ユーザーの95%はこれまでは自力でウェブサイトを作れなかったけれど、皆Strikinglyを使って自前のウェブサイトをすべて一人で作成できている。
シンプルさ、そしてモバイル最適化が、他のウェブサイトビルダーとの明確に差別化となる2つのキーポイントだ。


S:Strikinglyにとっての最大のマーケットはどの国でしょうか。
D:米国からスタートしてユーザーのコミュニティもここにあるから、そういった意味では自然と米国がもっとも大きくてアツい市場だといえるかな。ただしウェブサイトの作成は何も米国の人たちだけが抱える問題ではない。米国に次いで大きな市場は基本的にはヨーロッパ諸国だと考えている。そういえば面白いことに、ユーザの規模で言えば現在のところ米国の次に大きいマーケットが日本、そしてフランスになっているんだ。とりわけ日本マーケット向けには何か施策を打ったわけでもなく、日本語バージョンも作っていない、にも関わらずね。

調べてみて分かったのは、日本人ユーザーたちがグーグル翻訳を使いつつStrikinglyを使ってくれているということだった。これには驚いたよ、「そんなに大変な思いをしながら使ってくれているのか」と。僕としてはデザイン、存在感、個性といったものにこだわる国において非常に伸びているのを感じている。直近では中国ユーザーがどんどん増加しているし、ヨーロッパ諸国でも同様だ。ただしあくまでも米国がメインのマーケットであることに変わりはないよ。そして日本、フランスも重要なマーケットだ。


S:どのように米国、日本、フランスなどでユーザーを獲得してきたのですか?
D:僕らのチームはプロダクト志向が強くて、とにかくこのStrikinglyというプロダクトを愛しているんだ。プロダクトを作ることが大好きだし、ユーザーをハッピーにすることに大きな喜びを感じる。だから例えば、ユーザーサポートのトップの肩書きはチーフ・ハピネス・オフィサー(Chief Happiness Officer)としていたりね。将来的にはプロダクトを最高なものに磨き上げて、ユーザーたちが自然とStrikinglyのことを口にするようになり、より多くの人に広まっていくことを目指している。

だからこれまでマーケティングらしいことはやってきていなくて、全ては口コミによるものなんだ。実際米国では、今までに僕自身で約2万人の人たちに個別でStrikinglyのことを話してきている。彼らと良い友人関係を築くことができれば、自然と彼らはプロダクトのことを口コミで広めてくれるんだ。日本でもこれは全く同じで、最初に少数だけど影響力のある人達がユーザーになってくれた。そのうちの一人はたしか京都出身で、いまはカナダにいるはずなんだけど、彼が「僕とStrikinglyにまつわるストーリーを描いてみたよ」といってアニメを作ってくれたことはすごく嬉しかったし、印象に残る出来事だったよ。僕が感じているのは、Strikinglyのユーザーは僕らのプロダクトの熱狂的なファンになってくれていて、周りの人達にも本当によく広めてくれているということだ。今自分たちはサービスのコミュニティ作りによるマーケティングを推し進めているけれど、常に念頭に置いているのはプロダクト、ユーザーの幸せ、この2つだ。これがStrikinglyというプロダクトを広める上で非常に重要なことだと考えている。


S:どのような人がメインユーザーなのでしょうか?また、ユースケースを教えてください。
D:非常にたくさんのユースケースがあって、中には全く想像していなかったようなものもあったよ。ウェブサイトビルダーの従来のユーザー像としてスモールビジネスの事業者が挙げられるけど、Strikinglユーザーにもやはりそういった人たちは多い。例えば日本人ユーザーで多いのはヨガ教室を開いている人などがそうだ。自分でビジネスをやっていたり、フリーランサーとして活動していたりする人たちが多く使っている。これはまさにこれまでのウェブサイトビルダーにおける典型的なユースケースと言えるんじゃないかな。

それ以外での新しいトレンドとして、自身の団体を立ち上げたり、独自のプロジェクトをスタートする人、アプリを開発するスタートアップの人たちなどによる利用が伸びてきている。こういった自分たちで何かを作ることに関心を持つユーザークラスターのことを僕たちは「アントレプレナーコミュニティ」と呼んでいる。多くのユーザーが彼らのプロジェクトに関していいスタートを切るためにStrikinglyを活用しているんだ。通常スタートアップには十分なリソースはないけれど、Strikinglyを使ってランディングページを作り、プロダクトに関するアイディアを披露して、どのくらいの人たちがそのプロダクトのユーザーになってくれそうか、アイディアを好きになってくれるかといったことを検証できるからね。とても効率的なやり方だと思うし、そのために技術者の共同創業者を見つける必要もなくなる。

そんな訳で多くのユーザーがランディングページを作ったり、特定のイベントに関する特設サイトや自身のサイドプロジェクトのこと、非営利団体について情報発信するための手段として使ってくれている。最近見つけたところで言うと、日本で人気のあるバブルサッカーのサイトなんかもとても面白かったよ。まとめると、いわばアントレプレナー、イノベーションといったカテゴリで利用してくれているユーザー層があって、彼らも相当数いるんだ。

それから他にも興味深いユースケースがあって、パーソナルブランディング、オンライン履歴書として活用している人たちが非常に多い。日本人政治家のユーザーもいて、独自のキャンペーンサイトを作るのに使ってくれていた。多くの人が個人的な情報発信のツールとしてStrikinglyを利用してくれていて、職探しのため、またアート作品などポートフォリオ掲載のために使っているケースが多いね。さらに、あるカテゴリーで全く想定していなかった使われ方をしていたことがあって、何かというとStrikinglyを使ってラブレターをしたためて彼女に送った男性がいたんだ!またある男性は、プロポーズ用にウェブサイトを作っていたりね。記念日、結婚式といったイベントに際してStrikinglyを使ってくれる人たちがいることは本当に考えてもいなかったので本当に驚いたよ。それ以外にもPowerPointの代わりにプレゼンテーション用のドキュメントを作成するのに使ったり、はたまたフォトブログとして使ったり。当初自分たちが想定していたスモールビジネスシーンでの人気はやはり高いけれど、同時にユーザーたちが僕らの頭になかったような用途で、様々な場面でStrikinglyを独自に活用していてつねづね驚かされているよ。


YCのためだけにスタートアップを作るな



S:YCでの経験について教えてください。YCに参加することで得られるアドバンテージは何でしょうか?
D:YCのプログラムは間違いなくこれまで経験した中で最高なものだった。個人的にYCのことを最も的確に表現するとすれば、それは「最高の大学に入学する」ようなものかな。スタートアップをやっているととかく経験するのは、自分がとても孤独で、こんなことをやっているのは自分しかいない、周りの人が皆自分に否定的なのではないか?といったネガティブな感情を抱くことだ。だけどYCでは、同じように参加者皆がそれぞれの問題を抱えていることを実感できる。また参加者は皆イノベーティブで自らの中に強い原動力を持っている人たちばかりだ。それはもう素晴らしい経験が出来たし、このようなコミュニティの一員になれることが何より価値のあることだと強く感じたよ。YCを卒業してからも偶然道端でばったりと会ったときに「あの時一緒だった〇〇じゃないか!」と言って話せるような卒業生ネットワークに加わることが出来たことは非常に大きいと思う。

そしてもう一つ大きな価値は、超一流のメンタリングが受けられることだ。メンター陣は皆単なる投資家ではなく起業家としての経歴を持っていて、スタートアップをやっていく中で経験する苦難をよく理解してくれている。だからこそ彼らのアドバイスは非常に有意義なんだ。加えて、一流の投資家ネットワークにもアクセス出来るようになるし、YCという名前のもとで多くの様々なリソースにアクセス可能になる。まとめると、コミュニティの一員となれること、優れた助言をもらえること、そして多くの人脈にアクセスできるようになること、これらがYCで得られるものだと言える。ただ長期的な視点で言うと、やはりYCを通じて出会った人たち、これが他のどんなことよりもかけがえのない財産になっていくと確信しているよ。


S:YCに参加したい日本のスタートアップに対してアドバイスをお願いします。
D:実は初めてYCにアプライした時、自分たちは審査が通らなかった。最終面接まで残り、マウンテンビューに行き面談をし、そして最終的に却下されてしまったんだ。その後僕たちはフルタイムでプロダクトの開発に専念することに決め、中国からの片道航空チケットを買ってサンフランシスコに飛んだ。「先のことなんて知るもんか」とね。それから5ヶ月後、YCに二度目のアプライをして、それが無事通り参加することになった。YC参加にあたっては、もちろんトラクション、チーム、あらゆることが重要だよ。ただ、一つだけアドバイスをするとすればそれは「YCのためだけにスタートアップを作るな」ということだ。YCやその他インキュベーターのためにスタートアップをやるのか?それが間違いなことは明らかだ。ところが、一回目のスタートアップをやる起業家の多くがそうした間違いを犯しがちだ。「YCに入れば、500Startupsに入れば、はたまたその他のインキュベーターに入れば行く先は明るい!」そんな風に思い込んでしまう。自分のコンピューターを売っても、家を売っても、それでもがむしゃらに仕事を続けているスタートアップを見てはじめてYCは「このチームには可能性がある、彼らをサポートして成功させよう」と考えるんだ。だから、あまりYCに参加するということばかりを深く考えすぎるなということを伝えておきたい。大事なのはあくまでも自身のアイディアであり会社だ。会社にとって重要なのは、トラクションやチームだ。そしてプロダクト、ユーザーだ。もちろんそれらは必ずしも将来の成功を約束するものではないよ。だけどそのスタートアップに全力を尽くしていて、結果的にYCには入れなかった、それでどうなるか?そう、何も気にすることはない。真に重要だと思えることをひたむきに続けていくことが、いつの日か成功につながるんだ。


S:Strikinglyを始める前には何をしていたのですか?
D:面白いことに学生時代に特にコンピューターサイエンスを学んでいたわけではなくてね。シカゴ大学で経済学を専攻していたから、卒業後は投資銀行で証券マンとして働くかもしれなかった。だから、テック系スタートアップの世界に飛びこんだのは偶然なことだったね。計画的に決めたことでも戦略立てて考えていたことでもない。ただ、自分が恵まれていたと感じるのは周りに志を同じくする仲間がいたことだ。Strikinglyを始める前、学生時代に一つ目のスタートアップを立ち上げたけれど、それは失敗してしまった。その後大学をやめ、上海に戻り社会起業インキュベーターで働き始めたよ。当時は良いことがやりたい、人類にとって役に立つことをしたいと考えていたけれど、自分を奥底から駆り立てるものが何かと考えた時に、イノベーティブな物事により惹かれている自分がいることに気がついた。人類にとって良いことでも、自分がワクワクすることをしていないようではダメだ。ちょうどその頃、学生時代にスタートアップを一緒にやっていたCo-Founder2人に話をしていてね。一緒にもう一つ上のレベルに行こう、と。こうして僕たちはStrikinglyをスタートした。大切なことは、本当に一緒に働きたいと思える仲間と共に取り組むこと、情熱や自分の内なる声に耳を傾けて、自分が本当に成し遂げたいことが何なのかを知ることだと思う。


S:中国のスタートアップシーンについてお聞かせください。スタートアップを始めるには良い環境なのでしょうか。
D:一言で表すなら、現在の中国のスタートアップシーンの盛り上がりは凄まじいものがある。北京に行けば一目瞭然だが、ちょうどサンフランシスコと同じように誰もがスタートアップを立ち上げている。そこに流れこむ資本も莫大で、若者たちが我こそはと名乗りをあげてスタートアップの世界に続々と飛び込んでいる。そういった意味では非常にダイナミックな流れがあると言えるね。けれど、ステージとしてはまだまだは初期段階だし、エコシステムはシリコンバレーのそれにはまだまだ及ばない。なぜならシリコンバレーは長い歴史を持っているからね。士業や専門業の人々、インキュベーターの層も厚いし、例えばここサンフランシスコではスタートアップの話をすれば皆が力を貸すと言ってくれる。中国のエコシステムはまだこのレベルには到達していない。たしかに皆が一旗揚げようとスタートアップの世界に進み、同時に投資家たちもいい投資機会を熱心に探っているし、日々多くのモノや新しいアイディアが出てくる刺激的な環境であることは間違いない。ただエコシステムという観点で言えば、少なくとも僕らが見てきた限りではまだまだシリコンバレーのような持続可能で健全なエコシステムにはなっていないのが実際のところだ。今は本当に初期の初期、そのようなエコシステムを作り上げていく第一歩を踏み出したといったところだよ。


S:日本のStrikinglyポテンシャルユーザーに向けて一言お願いします。
D:僕たちはまだまだ新しいスタートアップで、若いチームだ。誰もが使えるプロダクトを作り上げていくつもりだし、より良いものに育てていくためにやらなければならないことは無数にある。だから常にStrikinglyをよりよくするために改善すべきことを教えてくれるユーザーたちを求めているよ。あらゆるインスピレーション、アイディア、イノベーションはユーザーの期待に応えたいという欲求から生まれるからね。このクリエイションプロセスは僕たちだけで実現できるものではなくユーザーと一緒に取り組んでいくものだと考えている。特に日本はとても興味深いマーケットだ。誰のどのようなアドバイスであれ喜んで受け入れたいと思っているので、良いアイディアやフィードバックがあればいつでも知らせてほしい。

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