YouTubeの創業者Steve Chenから投資を受けた、ラフ画からプロトタイプを簡単に作成できるアプリPOPAPPとは?創業者Ben Linへのインタビュー



ベイエリアの起業家へのインタビューシリーズ。今回は、YouTubeの創業者Steve Chen氏や米国の著名アクセラレーターである500Startupsから投資を受けたスタートアップPOPAPPの創業者Ben Lin氏にインタビューを行った。POPAPPは、手書きで紙に書いたアプリのラフ画をモバイルで撮影するだけで、簡単にプロトタイプが作成できる便利なツールだ。アプリに関する詳しい情報はこちら

写真を撮るだけでプロトタイプが作れるアプリ


Q:POPAPPについて教えてください。
POPAPPはアプリのデモを簡単に作れるプロダクトだ。イメージしているアプリの絵を書いて、カメラでそれを写真を撮る。これだけで簡単にプロトタイプを作成できて、そのアイディアが本当に妥当なものなのかをモバイル上で検証できるんだ。実際に動くものをサクッと作ってチーム内で共有し、それをたたき台にアイディアを深める。あるいはそのデモで投資家にピッチをすることも出来るね。アイディアを持っている全ての人たちに対してそれを形にする手段を提供している。これがPOPAPPだ。


Q:他のプロトタイピングサービスとの違いは何でしょうか?
従来のプロトタイピングアプリの多くが、非常に高品質なインターフェースでプロトタイプが作れるという体験を売りにしていると思う。純粋にアプリが正常に動作するかを確かめたい技術者なんかにとっては、こういうアプリでも十分役に立つと思う。一方でPOPAPPはペンと紙さえあればプロトタイプを作れる。つまり技術者だけでなく、アプリ開発に興味がある全ての人が簡単にスタートを切れるようにしていて、ここが大きな違いと言えるかな。


Q:現在のトラクションについてお聞かせください。
今のところユーザー数14.5万人、約30万ダウンロードで、コンバージョン率としては40〜50%といったところになるね。プラットフォーム上にはアプリのプロトタイプが20万個ほど、またスケッチが150万ほどある。


Q:メインのマーケットはどの国でしょうか?

米国ユーザーが30%で最大だ。続いて日本のユーザーが20%!日本語バージョンはまだ作っていないにも関わらずね。(※先日、日本語版をローンチ)それと、中国ユーザーも同じく20%程度いる。僕らは米国、日本、中国をインターネットサービスにおける三大マーケットと見なしていて、この3つを着実に押さえられているという意味ではここまで非常に順調に成長できていると思っている。


Q:どのようにしてそのような多くのユーザを獲得したのでしょうか?
まず何より大事なのは、良いプロダクトを持つことだ。良いプロダクトがなければ、いかにグロースハックのようなテクニックを使ったりマーケティングに大金を 投じたところで成果があがることは無い。このことを前提の上で話すけれど、僕らの場合はちょっとしたゲームをアプリ内に設けたよ。具体的には、 POPAPPについてツイートすればプレミアムサービスに利用できるギフトカードが手に入るプロモーションを実施したんだ。その結果合計6000ツイートくらいしてもらえた。これでユーザーが一気に増えたよ。また、当時コンセプトが真新しかったこともあって多くのメディアに露出したのも大きかったし、Eメールマーケティングにも力を入れていた。


Q:あなたのバックグラウンド、またPOPAPPを始める以前のことについて教えてください。
僕は高校を中退していてね。日本は結構似ていると思うけれど、台湾では親たちが「将来の成功のために勉強しなさい」と言うんだ。明確な理由を説明すること無しにだよ。当時の僕はそれでも言われた通り学校に通っていた、いわば普通のいい子だったんだけど、ある時ふと「なんで 勉強=成功なんていう式が成り立つんだ?」と疑問を抱きはじめた。そんなことを考え続けるうち、高校の途中でもうこれ以上勉強なんてしたくないと思うようになり、とうとう中退してしまった。ところが、中退したのはいいけれど、次に何をしたらいいのか、どこに行けばいいのか全く分からなくなったんだ。しばらくの間バンドをやってみたりバスケをしたり、家にも帰らず友達とぶらぶらする日々を過ごした。それを見かねた両親が僕をオーストラリアに留学させたんだ。

留学して最初の1年目の成績はすごく良かったよ。夜は遊ぶ場所も無いし勉強くらいしかする ことが無かったからね。だけど徐々に新しい友達も増えて、けんかしたり、クラブに行ったり、遊びに行くことが多くなって、だんだん勉強しなくなった。気付けば周りはヤンキーみたいな友達ばかりだったよ(笑)いま振り返ってみるとロクな人間じゃなかったなと思う。そのうち両親に台湾に連れ戻されて、それから 間もなく2年間の兵役に参加させられた。ただ、兵役というと皆すごく嫌がるんだけど、僕にとっては友達も沢山できたし意外にもすごく楽しい場所だった。

兵役を終えてからは大好きだった車とバイクにハマった。何台も何台も買っては修理して、改造して、それを売るということを繰り返していた。機械にすごく興味があったんだ。実は、兵役後に父から彼の会社で働くように誘われていたんだけど、正直それだけは絶対に嫌だと思っててね(笑)それでも仕事はしなければと思って、新聞を買って求人広告欄でよさそうな会社を何社か見繕ってアプライした。その中の一社に無事採用されたよ。

仕事は相当楽しくて、以前中国にいた頃デザイナーをやっていた関係で機械の設計を任せてもらえた。大量の本を買ってデザインの勉強をして、結果も出せるようになって昇進し、機械工学士として働けることになった。それから4年間、僕は学校にいた頃よりもはるかに多くの時間を勉強に費やした。我ながら極めてよくやっていたと思う。というのも、当時ちょうど良いエンジニア数名が会社を去ってしまって、ろくに計算もせずに設計をするエンジニアが増えていてね。「顧客はカスタマイズがしたいのだから、とりあえず大きめに作っておけば大丈夫」というような意識が蔓延していたんだ。僕にはそんな考えが通用するとは到底思えなくて、どうしたものかとまいっていた。そこで一念発起し、本を買ってとにかく勉強して、設計に関わる計算を完璧に行える体制を整えた。とても骨が折れる作業だったよ。ただ僕にとってはそれが非常にやり甲斐を感じられる、楽しい仕事だったのもまた事実だ。機械は数千にも登る部品があって、その全てが互いに関係し合っているから、数式をすごく巨大なエクセルに投入しなければならなくて。数式を調整するのに数ヶ月を要したよ。ただこれをやったお陰でいちいちゼロから計算をしたりデザインをしなくても、シンプルに数字を入力すれば機械を作ることが出来るようになった。こうして生産スケール拡大に成功したんだ。

この頃僕は26,27歳だった。ある時ふと思ったんだ。「今と同じことを10年、20年先も続けていくのか?」たしかに給料は相当良かったと思う。しかも旧来型の大企業だったから、勤続していけば待遇がより良くなっていくことは何となく分かっていた。でもそれってあんまりいい人生じゃないなと思ってね。自分が年をとってしまう前にこの状況を変えなければと思った。そこで会社をやめたんだ。その後門外漢だったインターネット業界についての勉強を始めた。気づいたことは、スマートで腕のいい技術者を仲間にするならまずは自分自身がそういう人にならないとダメだということ。アイディアを持っているだけではなくて実行まで持っていけるんだということを示せるようにならなければと直感した。それから2年間、コーディングの勉強をするのは勿論だけど、それ以上にいいエンジニアになることを心がけて訓練を積んだ。


Q:Co-Founderとはどのようにして出会ったのですか?
POPの前には4つのプロジェクトをやっていて、それぞれ写真、音楽、ニュース、そしてナイトクラブに関わるものだった。デザイナーの共同創業者とは、そのうちの2つのプロジェクトを一緒にやったことがあったんだ。

写真のサービスに関して少し話すと、僕にとって初めて取り組んだものだったし、初めて実際にプロダクトを作ったものでもあった。クラウドにすべての写真デー タを保管出来るもので、どういうインターフェースが適切かと考えた時に、毎日人が接するものだなと。そしてブラウザを開いた時に出てくるウィンドウがそれだと思ったんだ。コンセプトはChromebookに非常によく似ていて、ブラウザさえあれば全てのデータにアクセス出来るというものだ。だけどそれは当 時すこし先進的すぎて、使うには少し混乱してしまうような代物だった気がする。そんなわけで事業的には失敗してしまったね。ただそれとは対照的にプログラマーたちは「すごい。これはどうやって作ったんだ?」と驚いていた。当時Javascriptがまだそんなに普及していない頃、それを使ってシンプルなアニメーションなどフロントエンドを書いていたからね。それが1つ目のプロジェクトだった。

2つ目がロケーションベースのクラブ向けサービス。その頃Node.jsがリアルタイムコミュニケーションに向いている言語だということを知って、実際に試してみたくてね。どんな女子がクラブにいるかをリアルタイムで知ることが出来るサービスを作ったよ。

POPAPP のアイディアを思いついたのはそれが終わった数年後だった。当時、音楽系アプリいくつくらいあるのかを調べてみるとざっと数千個あった。イベント系のアプ リは数十万個。それではプロトタイピングアプリは?当時ほとんどなかったんだ。そこで彼と話して、「今やっているプロジェクトが3〜6ヶ月くらいで終わるから、その後で始めようか」と話をしていた。だけど数日後もう一度彼と会って話して、「やるなら今始めよう」ということになった。他の人がまだ手を付けていない分野を見つけるのはとてもむずかしい。そこで彼と、この分野に全ての力を注ごうと決めたんだ。


Q:英語がとても堪能だと感じます。どのようにして身につけたのでしょうか?
まったくそんなことないけど、英語をある程度身につけたのは高校の頃かな。オーストラリアですごく英語がうまい彼女が出来てね(笑)台北には外国人が多いエリアがあって、そこに暮らす人達はみんな英語を流暢に話すんだ。もし英語を話せなければ少し見下されるような雰囲気すらある。僕はそれが嫌だったから英語を 頑張ったんだ。


良いプロダクトを作ることだけに集中すべき



Q:Youtube創業者であるSteve Chen氏から投資を受けていますね。その時のエピソードについてお聞かせください。
とてもラッキーだったというのが正直なところだね。もしリリースした後に誰もツイートしてくれなければ広まらなかったと思うけれど、どうやってか知らないけれど日本の人たちが知ってくれていてツイートしてくれた。Hacker Newsに取り上げてもらってプッシュもしてもらえた。もちろん良いプロダクトをしっかり作っていたからであって全部が全部ではないけれど、運は良かったと思う。

そして、そこそこ有名になった頃、台湾で開かれた小規模なスタートアップのトークイベントに参加したんだ。そこである男に出会ったんだけど、彼は僕らと違ってきれいなスーツをビシッと着ていて雰囲気がまったく違った(笑)。スタートアップ業界に詳しそうだねと言って話しかけてきたんだ。その時僕はまだインターネット業界歴6ヶ月だったんだけど(笑)僕は彼に台湾のスタートアップについて知っていることを全て伝えた。そしていよいよ「で、君は何をやっているんだ?」と聞いてみた。実は彼は投資銀行で働いていたんだ。そこで資金調達をちょうど検討していたことを伝えると、僕らに興味がありそうなコードの書ける ABC(American Born Chinese、中国系アメリカ人)の友人を知っていると。メールを送ってくれるように言ったよ。その日の夜、メールが来た。これまでにもHacker Newsに取り上げてもらってからネット界の著名人からも何度か連絡をもらったことがあったし、そんなに驚くことではないなと思っていた。それでもだ。 Steve本人から連絡が来たことはにわかには信じられなかった。仲間にすぐに連絡したよ、「おい、あのメール見たか?!」ってね(笑)こうして彼とのやり取りが始まった。

同時期に500Startupsとの話もあったから、500Startupsのアクセラレーターに参加するか、Steveのアクセラレーターに参加するか決 断しなければならなくなった。まあ、最終的に両方を選んだんだけど(笑)2つのアクセラレーターから投資を受けるということはちょっと変わっていたかもしれないけれど、彼らと契約に関する話をして「君たちにとって最も有益な方法を選べ」と言ってもらえたんだ。それで最終的に両方を選ぶことにした。


Q:500Startupsでの経験について教えてください。
素晴らしい経験だったよ。500のプログラムは非常に優れていて、特にシリコンバレーの外から来る人達にとっては参加するメリットがとても大きい。インキュベーターのプログラムに参加する以外に、僕らがシリコンバレーのエコシステムの中に入り込む手段はほぼないからね。個人的には数あるインキュベーターの中で、500が最も米国外のスタートアップに対して門戸を広く開いていると思っている。他のインキュベーターだと正直スタンフォードやバークレー出身のスタートアップがほとんどだからね。そういう意味で500は多様性を重視している。200名を超える一流VCの豊富なメンター陣へのアクセスが可能になる。 もちろんコミュニティに入り込めるということ、そして大規模なDemoDayに参加できるということも大きい。


Q:500Startupsのプログラムに参加したい日本のスタートアップに対してアドバイスをお願いします。
500に限ったアドバイスではなくあらゆることに共通して言えることを伝えたいと思う。まず一つ、「良いプロダクトを作ること」だ。多くのスタートアップが資金調達のことを必要以上に考えすぎている。だけど冷静になってみれば、グローバル展開し、ユーザを獲得していくためには良いプロダクトを作るしかないんだ。 トラクションが出来るまでは投資家たちと話をする必要は全くないと思う。そして次に重視すべきはまさにそのトラクション。投資はつまるところ「信頼」だと言える。もし信頼を勝ち得なければお金を出してもらうことも、プログラムに参加させてもらうことも出来ない。言うまでもなく彼らは将来得られるリターンの ためにインキュベーターをやっているのであって、チャリティでやっているわけではないからね。その点、事前に明確な数字で結果が出ていれば、信頼してもらうことのハードルは比較的低くなるかも知れない。

そんな訳で、もちろん良いアイディアを持つことは重要だけど、それ以上にアイディアをどうやって現実的に形にするかにフォーカスすべきだ。良いプロダクトを作り、ユーザー獲得、トラクション獲得することが、500はじめとするインキュベーターに参加する近道だと思う。それと、既にプログラムに参加している人たちとつながることも容易になるしね。とにかくトラクションをしっかり作ろう。それと最近では、500は教育系、フード系にとりわけ強い関心を持っているように思う。あとは特に力を入れているという訳ではないと思うけれど、バッチごとに必ず最低1社はハードウェア系スタートアップが参加しているのも興味深い。例えば日本のWHILLなんかも参加しているね。

話を戻すと、グローバルにトラクションを作れていれば文句無し、そうでなければ最低でもグローバルでスケールしていく戦略を示す必要があるね。彼ら投資家としては、アイディア、プロダクト、チームが優れていて、かつグローバル展開がうまくいくということの信頼に足る証拠を示してほしいんだ。ただしこれ、言うのは簡単だけど実際には全くそうではないよね(笑)

あともう一つ重要なことがあって、それは覚悟を示すことだ。Strikinglyというプロダクトを作ってYCに参加した中国人の友人がいるんだけど、彼らは1回目のアプライでは不採用になってしまった。その後一度中国に戻ってから、片道航空券だけで再びシリコンバレーに戻ってきた。その覚悟が認められて、2回目のアプライでYCのバッチに参加出来ることになった。


Q:日本にいるPOPAPPのポテンシャルユーザーに向けて一言お願いします。
愛しているよ!(笑)いや、まじめな話、日本人ユーザーがつくということは本当に嬉しい事なんだ。何もインタビューに来てくれた君たちが日本人だから言ってるわけではなくて、日本人には他人の仕事を尊敬する文化があるし、価値があると感じれば相応の対価も支払ってくれる。非常に礼儀正しくて素晴らしいユーザーだと感じている。もう間もなくPOPAPP日本語バージョンをリリースする予定だから是非使ってみてほしい。そしてもし直してほしいところがあればいつでもメールを送ってもらいたいな。日本のユーザーの皆さんのためにどんどん良くしていくからさ!

POPAPPのダウンロードはこちらから。

YouTubeの創業者Steve Chenから投資を受けた、ラフ画からプロトタイプを簡単に作成できるアプリPOPAPPとは?創業者Ben Linへのインタビュー



ベイエリアの起業家へのインタビューシリーズ。今回は、YouTubeの創業者Steve Chen氏や米国の著名アクセラレーターである500Startupsから投資を受けたスタートアップPOPAPPの創業者Ben Lin氏にインタビューを行った。POPAPPは、手書きで紙に書いたアプリのラフ画をモバイルで撮影するだけで、簡単にプロトタイプが作成できる便利なツールだ。アプリに関する詳しい情報はこちら

写真を撮るだけでプロトタイプが作れるアプリ


Q:POPAPPについて教えてください。
POPAPPはアプリのデモを簡単に作れるプロダクトだ。イメージしているアプリの絵を書いて、カメラでそれを写真を撮る。これだけで簡単にプロトタイプを作成できて、そのアイディアが本当に妥当なものなのかをモバイル上で検証できるんだ。実際に動くものをサクッと作ってチーム内で共有し、それをたたき台にアイディアを深める。あるいはそのデモで投資家にピッチをすることも出来るね。アイディアを持っている全ての人たちに対してそれを形にする手段を提供している。これがPOPAPPだ。


Q:他のプロトタイピングサービスとの違いは何でしょうか?
従来のプロトタイピングアプリの多くが、非常に高品質なインターフェースでプロトタイプが作れるという体験を売りにしていると思う。純粋にアプリが正常に動作するかを確かめたい技術者なんかにとっては、こういうアプリでも十分役に立つと思う。一方でPOPAPPはペンと紙さえあればプロトタイプを作れる。つまり技術者だけでなく、アプリ開発に興味がある全ての人が簡単にスタートを切れるようにしていて、ここが大きな違いと言えるかな。


Q:現在のトラクションについてお聞かせください。
今のところユーザー数14.5万人、約30万ダウンロードで、コンバージョン率としては40〜50%といったところになるね。プラットフォーム上にはアプリのプロトタイプが20万個ほど、またスケッチが150万ほどある。


Q:メインのマーケットはどの国でしょうか?

米国ユーザーが30%で最大だ。続いて日本のユーザーが20%!日本語バージョンはまだ作っていないにも関わらずね。(※先日、日本語版をローンチ)それと、中国ユーザーも同じく20%程度いる。僕らは米国、日本、中国をインターネットサービスにおける三大マーケットと見なしていて、この3つを着実に押さえられているという意味ではここまで非常に順調に成長できていると思っている。


Q:どのようにしてそのような多くのユーザを獲得したのでしょうか?
まず何より大事なのは、良いプロダクトを持つことだ。良いプロダクトがなければ、いかにグロースハックのようなテクニックを使ったりマーケティングに大金を 投じたところで成果があがることは無い。このことを前提の上で話すけれど、僕らの場合はちょっとしたゲームをアプリ内に設けたよ。具体的には、 POPAPPについてツイートすればプレミアムサービスに利用できるギフトカードが手に入るプロモーションを実施したんだ。その結果合計6000ツイートくらいしてもらえた。これでユーザーが一気に増えたよ。また、当時コンセプトが真新しかったこともあって多くのメディアに露出したのも大きかったし、Eメールマーケティングにも力を入れていた。


Q:あなたのバックグラウンド、またPOPAPPを始める以前のことについて教えてください。
僕は高校を中退していてね。日本は結構似ていると思うけれど、台湾では親たちが「将来の成功のために勉強しなさい」と言うんだ。明確な理由を説明すること無しにだよ。当時の僕はそれでも言われた通り学校に通っていた、いわば普通のいい子だったんだけど、ある時ふと「なんで 勉強=成功なんていう式が成り立つんだ?」と疑問を抱きはじめた。そんなことを考え続けるうち、高校の途中でもうこれ以上勉強なんてしたくないと思うようになり、とうとう中退してしまった。ところが、中退したのはいいけれど、次に何をしたらいいのか、どこに行けばいいのか全く分からなくなったんだ。しばらくの間バンドをやってみたりバスケをしたり、家にも帰らず友達とぶらぶらする日々を過ごした。それを見かねた両親が僕をオーストラリアに留学させたんだ。

留学して最初の1年目の成績はすごく良かったよ。夜は遊ぶ場所も無いし勉強くらいしかする ことが無かったからね。だけど徐々に新しい友達も増えて、けんかしたり、クラブに行ったり、遊びに行くことが多くなって、だんだん勉強しなくなった。気付けば周りはヤンキーみたいな友達ばかりだったよ(笑)いま振り返ってみるとロクな人間じゃなかったなと思う。そのうち両親に台湾に連れ戻されて、それから 間もなく2年間の兵役に参加させられた。ただ、兵役というと皆すごく嫌がるんだけど、僕にとっては友達も沢山できたし意外にもすごく楽しい場所だった。

兵役を終えてからは大好きだった車とバイクにハマった。何台も何台も買っては修理して、改造して、それを売るということを繰り返していた。機械にすごく興味があったんだ。実は、兵役後に父から彼の会社で働くように誘われていたんだけど、正直それだけは絶対に嫌だと思っててね(笑)それでも仕事はしなければと思って、新聞を買って求人広告欄でよさそうな会社を何社か見繕ってアプライした。その中の一社に無事採用されたよ。

仕事は相当楽しくて、以前中国にいた頃デザイナーをやっていた関係で機械の設計を任せてもらえた。大量の本を買ってデザインの勉強をして、結果も出せるようになって昇進し、機械工学士として働けることになった。それから4年間、僕は学校にいた頃よりもはるかに多くの時間を勉強に費やした。我ながら極めてよくやっていたと思う。というのも、当時ちょうど良いエンジニア数名が会社を去ってしまって、ろくに計算もせずに設計をするエンジニアが増えていてね。「顧客はカスタマイズがしたいのだから、とりあえず大きめに作っておけば大丈夫」というような意識が蔓延していたんだ。僕にはそんな考えが通用するとは到底思えなくて、どうしたものかとまいっていた。そこで一念発起し、本を買ってとにかく勉強して、設計に関わる計算を完璧に行える体制を整えた。とても骨が折れる作業だったよ。ただ僕にとってはそれが非常にやり甲斐を感じられる、楽しい仕事だったのもまた事実だ。機械は数千にも登る部品があって、その全てが互いに関係し合っているから、数式をすごく巨大なエクセルに投入しなければならなくて。数式を調整するのに数ヶ月を要したよ。ただこれをやったお陰でいちいちゼロから計算をしたりデザインをしなくても、シンプルに数字を入力すれば機械を作ることが出来るようになった。こうして生産スケール拡大に成功したんだ。

この頃僕は26,27歳だった。ある時ふと思ったんだ。「今と同じことを10年、20年先も続けていくのか?」たしかに給料は相当良かったと思う。しかも旧来型の大企業だったから、勤続していけば待遇がより良くなっていくことは何となく分かっていた。でもそれってあんまりいい人生じゃないなと思ってね。自分が年をとってしまう前にこの状況を変えなければと思った。そこで会社をやめたんだ。その後門外漢だったインターネット業界についての勉強を始めた。気づいたことは、スマートで腕のいい技術者を仲間にするならまずは自分自身がそういう人にならないとダメだということ。アイディアを持っているだけではなくて実行まで持っていけるんだということを示せるようにならなければと直感した。それから2年間、コーディングの勉強をするのは勿論だけど、それ以上にいいエンジニアになることを心がけて訓練を積んだ。


Q:Co-Founderとはどのようにして出会ったのですか?
POPの前には4つのプロジェクトをやっていて、それぞれ写真、音楽、ニュース、そしてナイトクラブに関わるものだった。デザイナーの共同創業者とは、そのうちの2つのプロジェクトを一緒にやったことがあったんだ。

写真のサービスに関して少し話すと、僕にとって初めて取り組んだものだったし、初めて実際にプロダクトを作ったものでもあった。クラウドにすべての写真デー タを保管出来るもので、どういうインターフェースが適切かと考えた時に、毎日人が接するものだなと。そしてブラウザを開いた時に出てくるウィンドウがそれだと思ったんだ。コンセプトはChromebookに非常によく似ていて、ブラウザさえあれば全てのデータにアクセス出来るというものだ。だけどそれは当 時すこし先進的すぎて、使うには少し混乱してしまうような代物だった気がする。そんなわけで事業的には失敗してしまったね。ただそれとは対照的にプログラマーたちは「すごい。これはどうやって作ったんだ?」と驚いていた。当時Javascriptがまだそんなに普及していない頃、それを使ってシンプルなアニメーションなどフロントエンドを書いていたからね。それが1つ目のプロジェクトだった。

2つ目がロケーションベースのクラブ向けサービス。その頃Node.jsがリアルタイムコミュニケーションに向いている言語だということを知って、実際に試してみたくてね。どんな女子がクラブにいるかをリアルタイムで知ることが出来るサービスを作ったよ。

POPAPP のアイディアを思いついたのはそれが終わった数年後だった。当時、音楽系アプリいくつくらいあるのかを調べてみるとざっと数千個あった。イベント系のアプ リは数十万個。それではプロトタイピングアプリは?当時ほとんどなかったんだ。そこで彼と話して、「今やっているプロジェクトが3〜6ヶ月くらいで終わるから、その後で始めようか」と話をしていた。だけど数日後もう一度彼と会って話して、「やるなら今始めよう」ということになった。他の人がまだ手を付けていない分野を見つけるのはとてもむずかしい。そこで彼と、この分野に全ての力を注ごうと決めたんだ。


Q:英語がとても堪能だと感じます。どのようにして身につけたのでしょうか?
まったくそんなことないけど、英語をある程度身につけたのは高校の頃かな。オーストラリアですごく英語がうまい彼女が出来てね(笑)台北には外国人が多いエリアがあって、そこに暮らす人達はみんな英語を流暢に話すんだ。もし英語を話せなければ少し見下されるような雰囲気すらある。僕はそれが嫌だったから英語を 頑張ったんだ。


良いプロダクトを作ることだけに集中すべき



Q:Youtube創業者であるSteve Chen氏から投資を受けていますね。その時のエピソードについてお聞かせください。
とてもラッキーだったというのが正直なところだね。もしリリースした後に誰もツイートしてくれなければ広まらなかったと思うけれど、どうやってか知らないけれど日本の人たちが知ってくれていてツイートしてくれた。Hacker Newsに取り上げてもらってプッシュもしてもらえた。もちろん良いプロダクトをしっかり作っていたからであって全部が全部ではないけれど、運は良かったと思う。

そして、そこそこ有名になった頃、台湾で開かれた小規模なスタートアップのトークイベントに参加したんだ。そこである男に出会ったんだけど、彼は僕らと違ってきれいなスーツをビシッと着ていて雰囲気がまったく違った(笑)。スタートアップ業界に詳しそうだねと言って話しかけてきたんだ。その時僕はまだインターネット業界歴6ヶ月だったんだけど(笑)僕は彼に台湾のスタートアップについて知っていることを全て伝えた。そしていよいよ「で、君は何をやっているんだ?」と聞いてみた。実は彼は投資銀行で働いていたんだ。そこで資金調達をちょうど検討していたことを伝えると、僕らに興味がありそうなコードの書ける ABC(American Born Chinese、中国系アメリカ人)の友人を知っていると。メールを送ってくれるように言ったよ。その日の夜、メールが来た。これまでにもHacker Newsに取り上げてもらってからネット界の著名人からも何度か連絡をもらったことがあったし、そんなに驚くことではないなと思っていた。それでもだ。 Steve本人から連絡が来たことはにわかには信じられなかった。仲間にすぐに連絡したよ、「おい、あのメール見たか?!」ってね(笑)こうして彼とのやり取りが始まった。

同時期に500Startupsとの話もあったから、500Startupsのアクセラレーターに参加するか、Steveのアクセラレーターに参加するか決 断しなければならなくなった。まあ、最終的に両方を選んだんだけど(笑)2つのアクセラレーターから投資を受けるということはちょっと変わっていたかもしれないけれど、彼らと契約に関する話をして「君たちにとって最も有益な方法を選べ」と言ってもらえたんだ。それで最終的に両方を選ぶことにした。


Q:500Startupsでの経験について教えてください。
素晴らしい経験だったよ。500のプログラムは非常に優れていて、特にシリコンバレーの外から来る人達にとっては参加するメリットがとても大きい。インキュベーターのプログラムに参加する以外に、僕らがシリコンバレーのエコシステムの中に入り込む手段はほぼないからね。個人的には数あるインキュベーターの中で、500が最も米国外のスタートアップに対して門戸を広く開いていると思っている。他のインキュベーターだと正直スタンフォードやバークレー出身のスタートアップがほとんどだからね。そういう意味で500は多様性を重視している。200名を超える一流VCの豊富なメンター陣へのアクセスが可能になる。 もちろんコミュニティに入り込めるということ、そして大規模なDemoDayに参加できるということも大きい。


Q:500Startupsのプログラムに参加したい日本のスタートアップに対してアドバイスをお願いします。
500に限ったアドバイスではなくあらゆることに共通して言えることを伝えたいと思う。まず一つ、「良いプロダクトを作ること」だ。多くのスタートアップが資金調達のことを必要以上に考えすぎている。だけど冷静になってみれば、グローバル展開し、ユーザを獲得していくためには良いプロダクトを作るしかないんだ。 トラクションが出来るまでは投資家たちと話をする必要は全くないと思う。そして次に重視すべきはまさにそのトラクション。投資はつまるところ「信頼」だと言える。もし信頼を勝ち得なければお金を出してもらうことも、プログラムに参加させてもらうことも出来ない。言うまでもなく彼らは将来得られるリターンの ためにインキュベーターをやっているのであって、チャリティでやっているわけではないからね。その点、事前に明確な数字で結果が出ていれば、信頼してもらうことのハードルは比較的低くなるかも知れない。

そんな訳で、もちろん良いアイディアを持つことは重要だけど、それ以上にアイディアをどうやって現実的に形にするかにフォーカスすべきだ。良いプロダクトを作り、ユーザー獲得、トラクション獲得することが、500はじめとするインキュベーターに参加する近道だと思う。それと、既にプログラムに参加している人たちとつながることも容易になるしね。とにかくトラクションをしっかり作ろう。それと最近では、500は教育系、フード系にとりわけ強い関心を持っているように思う。あとは特に力を入れているという訳ではないと思うけれど、バッチごとに必ず最低1社はハードウェア系スタートアップが参加しているのも興味深い。例えば日本のWHILLなんかも参加しているね。

話を戻すと、グローバルにトラクションを作れていれば文句無し、そうでなければ最低でもグローバルでスケールしていく戦略を示す必要があるね。彼ら投資家としては、アイディア、プロダクト、チームが優れていて、かつグローバル展開がうまくいくということの信頼に足る証拠を示してほしいんだ。ただしこれ、言うのは簡単だけど実際には全くそうではないよね(笑)

あともう一つ重要なことがあって、それは覚悟を示すことだ。Strikinglyというプロダクトを作ってYCに参加した中国人の友人がいるんだけど、彼らは1回目のアプライでは不採用になってしまった。その後一度中国に戻ってから、片道航空券だけで再びシリコンバレーに戻ってきた。その覚悟が認められて、2回目のアプライでYCのバッチに参加出来ることになった。


Q:日本にいるPOPAPPのポテンシャルユーザーに向けて一言お願いします。
愛しているよ!(笑)いや、まじめな話、日本人ユーザーがつくということは本当に嬉しい事なんだ。何もインタビューに来てくれた君たちが日本人だから言ってるわけではなくて、日本人には他人の仕事を尊敬する文化があるし、価値があると感じれば相応の対価も支払ってくれる。非常に礼儀正しくて素晴らしいユーザーだと感じている。もう間もなくPOPAPP日本語バージョンをリリースする予定だから是非使ってみてほしい。そしてもし直してほしいところがあればいつでもメールを送ってもらいたいな。日本のユーザーの皆さんのためにどんどん良くしていくからさ!

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