『ビデオゲームの父』が語るゲームと学習の今後、ATARI、BrainRush創業者Nolan Bushnellへのインタビュー(前編)




ベイエリアの起業家へのインタビューシリーズ。今回は、ATARIの創業者で『ビデオゲームの父』と称されるNolan Bushnell氏にインタビューを行った。ATARIは世界ではじめてビデオゲームを作るために設立された会社で、Appleの創業者であるSteve Jobs氏が40人目の社員として採用されたことで有名。また、Jobs氏がAppleの共同創業者であるウォズニアック(Stephen Wozniak)氏を巻き込んでBreakout(ブロックくずし)を改良した物語もよく知られている。現在、Nolan氏はBrainRushというゲーム教育のプロダクトを開発中。後編はこちら

『ゲームでの学習=悪影響』は古い価値観、創造性を育てる教育を



Q1. BrainRushについて教えてください。

簡単に言うとBrainRushは新しい形を有したオンライン上の学習サイトだよ。もし君が学校の先生だったとしよう。生徒達一人一人に能力の差異や個性がある分、一人一人に違った教育を提供できれば理想だが、たくさんの生徒を抱えるとそうもいかないよね。BrainRushはそんな今までの教育に疑問をもち、ゲームの要素をたくさん織り交ぜながら一人一人に合った学習を提供できるようにしたんだ。独自のゲームを作りBrainRush上でShareしたりもできる学習用ゲームのプラットフォームとしても機能しているよ。


Q2. ゲームでの学習は子供にとって悪影響だと言う人もいれば、ゲームを使った学習を評価する人もいらっしゃいます。どうお考えですか?
理論上、脳科学とゲームというのは密接な関係を持っていてね、人々がなぜゲームをするかと言うとそれは脳にすごく満足感を与えるからなんだ。結果的にゲーム要素を学習の中に取り込むことによってより楽しい学びができるし、ゲームでの学習が悪影響だなんて思っている人は正直僕からすると古い価値観を持っているとしか言えないね。今までの教育というのはやはり一人一人の能力の差異や個性を無視せざるを得なかった。例えば10人のクラスに日本語を教えるにしても、今まで通り普通に授業をすると、苦手意識のある生徒は飲み込みに時間がかかってしまい、飲み込みの早い生徒は退屈してしまう。だがね、BrainRushをはじめとするテクノロジーを利用したSoftwareを使うことによってより優れた教育のあり方が見出せるんだよ。インターネットが普及したおかげで自分が知りたいことがあればインターネットですぐに調べることができる。旧来の「たくさんの知識をできるだけ頭に詰め込むという教育」を「目の前の問題を解決するための創造性を育てる教育」へと変えていきたいね。


Q3. BrainRushはどれぐらいの年齢層の人達をターゲットにしていますか?

うーんそうだね。範囲で言うと、2歳から150歳の間かな。(一同笑)脳は筋肉と同じようなもの。トレーニングすればIQや集中力を高めてくれる。例えば数独というゲームがあるよね。数独をすればもちろん頭の体操になる。けれど数独を毎日し続けるというのは難しい。何故かと言うと最初の段階、つまりゲームのルールを知り、解決するまでの法則やプロセスを見出す過程で脳は一番活発に活動する。けれど、そのプロセスに慣れてしまうと脳神経の構築はあまり行われず、「飽きる」という現象が起きてしまう。だからゲームで学びを結びつけるのであれば、様々な種類の違ったゲームをしながら何かを学ぶのが脳にとって一番ベストなんだよ。


Q4. どういった種類のゲームがあるのですか?

今の段階では主に大きく分けて5つのテンプレートがあり、一つはQ&A方式のフラッシュカードで自分の知らない部分を重点的に鍛えるゲーム。次に分類分けのゲーム、単語を中心として動詞や名詞を分類分けするものもあれば、人体の筋肉をそれぞれ分類分けする生物学的な種類のもある。他にはシークエンスという順番の並びに特化したテンプレートなんかもあってトータルすると今は4000種類以上のレッスンがあるんだ。これらレッスンを作っているのはBrainRushを使う先生達だけでなく、たくさんの生徒達も作ってくれているんだよ。これはすごく重要なことで、何故なら生徒達がゲームをつくるというのは、「何を学びたいか」という疑問と「どうしたらそれを楽しく学べるか」という方法を生徒自身が自ら結びつけ、その解決策をコミュニティの人達にシェアしているということだから。この世で本当の意味で一番の先生というのは生徒達自身だと僕は思うんだ。


Q5. 日本人向けのバージョンを作る予定はありますか?

えっ君達がつくってくれるんじゃないの? (一同笑) そうだね、もちろん将来的には作りたいと思っているよ。今はスペイン語のバージョンに取り組んでいて、まずはそれを完成させることが優先事項だね。将来的には8カ国語のBrainRushを作りたいと思っているよ。


Q6. ノーランさん、あなたはコンピューターゲームを世に浸透させたことで産業史上、「ビデオゲームの父」とも呼ばれています。今までのゲームとは違い、今回の脳科学分野の要素を組み込んだBrainRushは非常に目新しく感じるのですが、この分野に興味を持ったきっかけは何ですか?
僕はビジネスのあり方を常に変えていきたいと思っているし、僕自身、新しい事を常に学んでいたい。それに自分の得意分野を教育に活かすことで新しいものを産み出せないかと考えたのがきっかけだね。


Q7. ビデオゲームの次世代として今Oculus Riftが注目されています。Oculusのようなゲームが今後のゲームのあり方をどのように変えていくとお考えですか?

私たちはゲームの中に入った瞬間、仮想現実にいる自分とゲームをしている自分という存在の違いをはっきり区別できなければ、ゲームが進化しているということすらまず計れないんだよ。20年程前に私たちは仮想現実をコンセプトとしたゲームに挑戦したが失敗した。その理由として、視界をつくり動かすというプロセスで気持ちが悪くなったり、船酔いのような吐き気がしたりしたというのが主でね。当時のテクノロジーではラグが生じたりコンピューターそのものが今と比べて早くなかった。だが今では感度もすごく繊細でラグもなく処理も早くなった。今では半時間の仮想世界でのゲームプレイでも酔ったりはしなくなった。これはすごいことだよね。


Q8. Nintendoは最近ヒット商品の開発に苦しんでいるようですがどうお考えですか?

NintendoはかつてWiiでとても強い商品を持っていた。テクノロジーという面からいうと解像度に関してはXboxやPlayStationに相当しているとは言えなかったがモーションコントローラーに関しては天才的と言わざるを得なかった。正直なところWii Uはデザイン面からしてもコンテンツ面からしてもあまり良い商品とは思わない。今世界で何がおこっているかというとスマートフォンが普及し、Nintendoが強いとしていた手に特化したモーションコントローラーの概念が遠のいている。はっきり言うとNintendoはハードウェアのマーケットにおいてはもう既に枠の外だと思っている。もし私がNintendoを経営者だったらどうするか。XboxやPlayStationとこれからも戦い続けるかと聞かれれば答えはノーだ。彼らはとても強力な基盤を築いている。

忘れてはいけないのが、今の時代の人々はゲームの楽しみをハードウェアに見出すのではなくソフトウェアに見出しているということ。故にそのプラットフォームであるハードウェアを買わざるを得ないだけ。たくさんのソフトウェアを持っていなければならないというのは大前提で、ディベロッパーは自分の作ったゲームのユーザー数を競い合う。それじゃぁディベロッパーはどのゲームのプログラムが作りやすいかというのを共有し合うよね?今のゲーム業界で一番簡単にプログラムを作ることができるのはXboxなんだよ。PlayStation 3なんかは逆にソフトウェアツールに関してもプログラムが複雑で簡単ではない。そうするとゲームを作りたいと思ったディベロッパーが最初にトライするのがやはりXboxなんだ。だから自然と強大なプラットフォームができる。もしNintendoが今後もハードウェアマーケットで勝負をしたいと考えるのであれば、とても革新的な要素を含んだいるという条件を満たしつつ、ソフトウェア面でディベロッパー達のプラットフォームを築くための工夫をしなければならない。

BrainRushのページはこちら

後編に続く。ジョブズを採用した理由や事業をやめない理由について言及されています。

『ビデオゲームの父』が語るゲームと学習の今後、ATARI、BrainRush創業者Nolan Bushnellへのインタビュー(前編)




ベイエリアの起業家へのインタビューシリーズ。今回は、ATARIの創業者で『ビデオゲームの父』と称されるNolan Bushnell氏にインタビューを行った。ATARIは世界ではじめてビデオゲームを作るために設立された会社で、Appleの創業者であるSteve Jobs氏が40人目の社員として採用されたことで有名。また、Jobs氏がAppleの共同創業者であるウォズニアック(Stephen Wozniak)氏を巻き込んでBreakout(ブロックくずし)を改良した物語もよく知られている。現在、Nolan氏はBrainRushというゲーム教育のプロダクトを開発中。後編はこちら

『ゲームでの学習=悪影響』は古い価値観、創造性を育てる教育を



Q1. BrainRushについて教えてください。

簡単に言うとBrainRushは新しい形を有したオンライン上の学習サイトだよ。もし君が学校の先生だったとしよう。生徒達一人一人に能力の差異や個性がある分、一人一人に違った教育を提供できれば理想だが、たくさんの生徒を抱えるとそうもいかないよね。BrainRushはそんな今までの教育に疑問をもち、ゲームの要素をたくさん織り交ぜながら一人一人に合った学習を提供できるようにしたんだ。独自のゲームを作りBrainRush上でShareしたりもできる学習用ゲームのプラットフォームとしても機能しているよ。


Q2. ゲームでの学習は子供にとって悪影響だと言う人もいれば、ゲームを使った学習を評価する人もいらっしゃいます。どうお考えですか?
理論上、脳科学とゲームというのは密接な関係を持っていてね、人々がなぜゲームをするかと言うとそれは脳にすごく満足感を与えるからなんだ。結果的にゲーム要素を学習の中に取り込むことによってより楽しい学びができるし、ゲームでの学習が悪影響だなんて思っている人は正直僕からすると古い価値観を持っているとしか言えないね。今までの教育というのはやはり一人一人の能力の差異や個性を無視せざるを得なかった。例えば10人のクラスに日本語を教えるにしても、今まで通り普通に授業をすると、苦手意識のある生徒は飲み込みに時間がかかってしまい、飲み込みの早い生徒は退屈してしまう。だがね、BrainRushをはじめとするテクノロジーを利用したSoftwareを使うことによってより優れた教育のあり方が見出せるんだよ。インターネットが普及したおかげで自分が知りたいことがあればインターネットですぐに調べることができる。旧来の「たくさんの知識をできるだけ頭に詰め込むという教育」を「目の前の問題を解決するための創造性を育てる教育」へと変えていきたいね。


Q3. BrainRushはどれぐらいの年齢層の人達をターゲットにしていますか?

うーんそうだね。範囲で言うと、2歳から150歳の間かな。(一同笑)脳は筋肉と同じようなもの。トレーニングすればIQや集中力を高めてくれる。例えば数独というゲームがあるよね。数独をすればもちろん頭の体操になる。けれど数独を毎日し続けるというのは難しい。何故かと言うと最初の段階、つまりゲームのルールを知り、解決するまでの法則やプロセスを見出す過程で脳は一番活発に活動する。けれど、そのプロセスに慣れてしまうと脳神経の構築はあまり行われず、「飽きる」という現象が起きてしまう。だからゲームで学びを結びつけるのであれば、様々な種類の違ったゲームをしながら何かを学ぶのが脳にとって一番ベストなんだよ。


Q4. どういった種類のゲームがあるのですか?

今の段階では主に大きく分けて5つのテンプレートがあり、一つはQ&A方式のフラッシュカードで自分の知らない部分を重点的に鍛えるゲーム。次に分類分けのゲーム、単語を中心として動詞や名詞を分類分けするものもあれば、人体の筋肉をそれぞれ分類分けする生物学的な種類のもある。他にはシークエンスという順番の並びに特化したテンプレートなんかもあってトータルすると今は4000種類以上のレッスンがあるんだ。これらレッスンを作っているのはBrainRushを使う先生達だけでなく、たくさんの生徒達も作ってくれているんだよ。これはすごく重要なことで、何故なら生徒達がゲームをつくるというのは、「何を学びたいか」という疑問と「どうしたらそれを楽しく学べるか」という方法を生徒自身が自ら結びつけ、その解決策をコミュニティの人達にシェアしているということだから。この世で本当の意味で一番の先生というのは生徒達自身だと僕は思うんだ。


Q5. 日本人向けのバージョンを作る予定はありますか?

えっ君達がつくってくれるんじゃないの? (一同笑) そうだね、もちろん将来的には作りたいと思っているよ。今はスペイン語のバージョンに取り組んでいて、まずはそれを完成させることが優先事項だね。将来的には8カ国語のBrainRushを作りたいと思っているよ。


Q6. ノーランさん、あなたはコンピューターゲームを世に浸透させたことで産業史上、「ビデオゲームの父」とも呼ばれています。今までのゲームとは違い、今回の脳科学分野の要素を組み込んだBrainRushは非常に目新しく感じるのですが、この分野に興味を持ったきっかけは何ですか?
僕はビジネスのあり方を常に変えていきたいと思っているし、僕自身、新しい事を常に学んでいたい。それに自分の得意分野を教育に活かすことで新しいものを産み出せないかと考えたのがきっかけだね。


Q7. ビデオゲームの次世代として今Oculus Riftが注目されています。Oculusのようなゲームが今後のゲームのあり方をどのように変えていくとお考えですか?

私たちはゲームの中に入った瞬間、仮想現実にいる自分とゲームをしている自分という存在の違いをはっきり区別できなければ、ゲームが進化しているということすらまず計れないんだよ。20年程前に私たちは仮想現実をコンセプトとしたゲームに挑戦したが失敗した。その理由として、視界をつくり動かすというプロセスで気持ちが悪くなったり、船酔いのような吐き気がしたりしたというのが主でね。当時のテクノロジーではラグが生じたりコンピューターそのものが今と比べて早くなかった。だが今では感度もすごく繊細でラグもなく処理も早くなった。今では半時間の仮想世界でのゲームプレイでも酔ったりはしなくなった。これはすごいことだよね。


Q8. Nintendoは最近ヒット商品の開発に苦しんでいるようですがどうお考えですか?

NintendoはかつてWiiでとても強い商品を持っていた。テクノロジーという面からいうと解像度に関してはXboxやPlayStationに相当しているとは言えなかったがモーションコントローラーに関しては天才的と言わざるを得なかった。正直なところWii Uはデザイン面からしてもコンテンツ面からしてもあまり良い商品とは思わない。今世界で何がおこっているかというとスマートフォンが普及し、Nintendoが強いとしていた手に特化したモーションコントローラーの概念が遠のいている。はっきり言うとNintendoはハードウェアのマーケットにおいてはもう既に枠の外だと思っている。もし私がNintendoを経営者だったらどうするか。XboxやPlayStationとこれからも戦い続けるかと聞かれれば答えはノーだ。彼らはとても強力な基盤を築いている。

忘れてはいけないのが、今の時代の人々はゲームの楽しみをハードウェアに見出すのではなくソフトウェアに見出しているということ。故にそのプラットフォームであるハードウェアを買わざるを得ないだけ。たくさんのソフトウェアを持っていなければならないというのは大前提で、ディベロッパーは自分の作ったゲームのユーザー数を競い合う。それじゃぁディベロッパーはどのゲームのプログラムが作りやすいかというのを共有し合うよね?今のゲーム業界で一番簡単にプログラムを作ることができるのはXboxなんだよ。PlayStation 3なんかは逆にソフトウェアツールに関してもプログラムが複雑で簡単ではない。そうするとゲームを作りたいと思ったディベロッパーが最初にトライするのがやはりXboxなんだ。だから自然と強大なプラットフォームができる。もしNintendoが今後もハードウェアマーケットで勝負をしたいと考えるのであれば、とても革新的な要素を含んだいるという条件を満たしつつ、ソフトウェア面でディベロッパー達のプラットフォームを築くための工夫をしなければならない。

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後編に続く。ジョブズを採用した理由や事業をやめない理由について言及されています。